
ブログをご覧いただきましてありがとうございます。
「切削工具の情報サイト タクミセンパイ」を運営する、編集長の服部です。
本記事では、「中小企業のAIシステム開発」について解説しています。
「アルム社のインタビューを事例として、中小企業が取り組むべきAIシステム開発」について理解が深まる記事を目指して執筆しました。
アルム社のインタビューでは、10の質問にお答えいただいており、各項目で参考になる回答を(インタビュー○○)と記載していますので、参考にしてください。
AIシステム開発のプロセス
まず、AIシステムの開発を進めるプロセスを下図に示しました。

このプロセスに沿って、説明していきます。
解決したい課題の決定

課題の洗い出し
まずはAI抜きにして、自社で課題となっている業務を洗い出します。(インタビュー2参照)
課題といって思いつかない場合は、例えば1日に1回以上、頻繁に発生する業務をホワイドボードにみんなで書き出してみます。
書き出した業務の中から、8〜9割の工程が自動化されると、人件費削減等のメリットがあるものをピックアップしてください。
なぜ8〜9割かというと、最新のAIであっても全ての工程や対象を自動化するのは難しく、かつ精度も人と同等かそれ以下であることが多く、人と協働した形でないとシステムとして成立しないからです。
ほとんどのプロジェクトで、AIで自動化できない工程や精度が出ない対象が存在するため、AIが担当する8〜9割の工程・対象を明確にする必要があります。(インタビュー9参照)
プロジェクトメンバーの選出

プロジェクトを成功に導く要素の1つが、最適なメンバーの選出です。
必要なのは、下記3つのカテゴリのメンバーが参加することです。
プロジェクト担当
AIリテラシーが高く、社内を納得させられる、リーダーシップを発揮できる方。
経営陣
ビジネスインパクトの想定とROI(投資対効果)の判断ができること、そしてプロジェクトの責任がとれる方。
システム利用者
学習に使用するデータの質、AIがアウトプットしたデータの精度を判断できること、システムの実用性を判断できる方。
プロジェクト担当
前述したとおり、AIは工程のすべてを自動化したり、精度100%を出すことが難しいです。
そのことを理解した上で、プロジェクトを進め、社内を納得できる方がプロジェクト担当になると、成功の確率がいっきに上がります。
加えて、経営陣とシステム利用者と良好な関係を築き、円滑なコミュニケーションが取れることも必要になってきます。
経営陣
AIシステムに対する投資は非常に高額であり、効果が出るまで時間がかかります。
一方で、うまくAIを活用すれば、新たなビジネスモデルを創出したり、ROI(投資対効果)の高い結果を出すことができます。
そのため、社長や経営層が参加して全社的なプロジェクトで進めるべきです。
結果報告や決定事項がある打ち合わせに参加してもらうことで、スムーズにプロジェクトを進行・完了させることができます。
また、経営層のノウハウをシステムに入れることができればベストです。
アルム社においても、平山社長が参加され、見積りのノウハウをシステムにインプットされています。(インタビュー8参照)
システム利用者
システム利用者は、AIシステムで解決する課題によりますが、調達部、製造部、生産技術部、品質管理部、知財部など、実際に現場で課題を抱え、システムを利用することになる方です。
AIシステム開発でよくあるのが、システムが完成した後に現場の方に利用してもらったところ、「こんなものは使えない!」とプロジェクトが終了してしまうことです。
そのため、初期からメンバーとして参加してもらうことをオススメします。
アルム社においては、実際にマシニングセンタなどの工作機械を操作する方が、プロジェクトに参加されて、AIが出した結果の検証をされています。(インタビュー6参照)
メンバーのモチベーション維持
AIシステムの開発には、データを用意し、データの質を確認して、AIがアウトプットした結果の精度を確認するといった業務が発生します。
この業務は、人にしかできず、専門的な知識や経験が必要とされるケースが多く、かつ長期の取り組みになります。
課題として選んだ業務が自動化されてメリットが生まれるのは絶対条件ですが、システムを利用する立場の人が、将来的に業務が楽になると確信をもってプロジェクトに取り組めることが、メンバーのモチベーション維持に重要になってきます。
アルム社のシステム開発の苦労話で、プロジェクト担当者が弱音を吐きながらも続けられたのは、将来的に圧倒的に楽になると信じられたからだと思います。(インタビュー6参照)
AIの必要性判断

次に、選んだ課題を解決するためのシステムを開発する上で、AIが本当に必要なのかを判断する必要があります。
さらに、どのような技術であればシステム化が達成でき、どのような学習データを用意する必要があるか確認しなければなりません。
AIの相談先選定
AIの必要性や、必要になる技術・データについての相談は、AIベンダーの無料相談・コンサルティングや、アルム社のように大学との連携などを活用するといいと思います。(インタビュー3参照)
コンサルティングや技術協力先の選定は、保有している技術と、業界理解度から判断することをオススメします。
保有技術
日本には300社以上のAIベンダーが存在しますが、保有している技術は異なります。
AI OCR、NLP、音声認識、画像認識など、AIに使われる技術は複数あります。
特定の技術が強い会社、複数の技術を組み合わせられる会社、各社それぞれ強みが異なるため、事前にHPをチェックした上で打ち合わせで確認しましょう。
業界理解度
窓口となる営業担当と、AIのチューニングやシステムを開発する技術担当の業界理解度が、プロジェクトのスピードや成功に大きく影響します。
例えば、「製造業に強いAI会社です!」とHPに記載されている会社であっても、金属加工が詳しいとは限りません。製造業は幅広い業界ですので。
業界理解度はHPから判断することが難しいため、こちらは打ち合わせで確認しましょう。
相談先の業界理解度が高ければ、業界の基礎知識や常識を説明する手間が省けます。
必要なデータのバリエーションと量
必要な技術を絞りこめてくると、必要なデータのバリエーションと量の見込みが立てられるようになってきます。
データの収集、そのあとのデータの質のチェックやラベリングは非常に時間がかかります。
蓄積された過去のデータをチェックした上で活用する場合もあれば、新規でデータを集め始めなければならない場合もあります。
そのため、必要なデータの種類と量が分かったら、早めにデータ準備の計画を立て、関係部署と連携しましょう。
データを活用できるように、アルム社のように日ごろから熟練工の知見の数値化を進めておくと、AIシステム開発の際に役に立ちます。(インタビュー5参照)
システム設計と導入効果算出

AIの必要性があった場合、AIシステムの設計と、システム導入による効果を算出しましょう。
このフェーズでは、システムを利用する立場のメンバーと、ROI(投資対効果)が判断できる経営陣の参加がポイントとなります。
AIシステム設計
AIシステムの設計は、技術的な実現性や予算を抜きにして、理想的なシステムを社内で話し合った上で、AIベンダーなどに相談しましょう。
今の技術では実現が難しいことだったり、予算が足りなくてあきらめざるを得ない機能も、事前に話しておくことで将来的なシステムのアップデートが楽になることがあります。
例えば、今は予算の関係で搭載できない機能も、将来的に追加することを想定して、データの登録だけはできるようにしておくと、登録の二度手間をなくすことができます。
システム導入効果の算出
選んだ課題が自動化されることで、年間どれくらいの人件費削減等のメリットがあるか、ROI(投資対効果)を算出します。
例えばアルム社のARMCODE1を例に説明すると、マシニングセンタなどの工作機械オペレーターの1日の業務のうち、プログラム作成が全体の3割を占めていたとします。(8時間勤務なら2.4時間)
3割のプログラム作成時間(2.4時間)のうち、8割が自動化できたとすると、1.92時間/日を削減できます。
年間の勤務日数を240日とすると、1.92時間/日×240日=460.8時間/年となります。
オペレーターの年収を500万円とすると、時給は2,604円/時間。(年間の勤務日数を240日・1日あたりの勤務時間を8時間とする)
もしオペレーターが3名働いているとしたら、460.8時間/年×2,604円/時間×3人=約360万円/年を削減できることになります。
システムへの投資回収期間は各社違うと思いますが、システムを導入すると1年で数百万円規模削減できるとなると、ROI(投資対効果)で社内を説得させることができるのではないかと思います。
また、ある業務が自動化されることで、もともとその業務をしていた人が新たに生む価値も忘れてはいけません。
例えば、オペレーターがより多くの製品を作ることができたり、部下の教育に力を入れたり、品質チェックに力を入れるなどです。
外販で新たな売り上げを
自社向けに作ったAIシステムを、同じような課題を抱える他社に売る(外販)ことができれば、新たの売り上げを得ることができます。
アルム社のARMCODE1も、自社にメリットがあるシステムであり、金属加工をする多くの会社が興味を示すシステムになっています。
そのため、解決したい課題をピックアップする際に、自社にメリットがあるだけでなく、他にも欲しい会社がいないかという視点を入れることができるとベストです。
開発の進め方
アジャイル開発

予算に関係なく、AIシステムの開発はスモールスタートしてリスクを抑え、少しずつ進むべき方向を見極めながら開発するのがいいと思います。
段階的にシステムを完成形に近づけていく進め方をする際に、アジャイル開発が参考になります。
アジャイル開発とは、事前にシステムの設計を完全に決めて完成させてしまうのではなく、開発中に発生する状況の変化に対応しながら開発を進める手法です。
アルム社のARMCODE1も、ベータ版を500ユーザー限定で提供し、今後のアップデートを提示してビジネスを展開されています。(インタビュー7参照)
また、AIシステム開発のプロジェクトは、主にAIベンダーなどがスケジュールを管理してくれますが、任せきりにせず、しっかりプロジェクト担当が意見を出して積極的に参加していきましょう。
人にしかできない結果の判断

各フェーズで、AIがアウトプットした結果をプロジェクトメンバーで確認し、その精度を判断します。
AIの結果(主に精度)が正しいか判断できるのは、人だけです。
また、AIは勝手に学習するものだと思われている方が多いのですが、技術的に可能ではありますが、自動学習はオススメできません。
その理由は、インプットされたデータが全て学習すべき質の高いデータであるとは限らないため、人がチェックして選別した上で学習させないと、精度が落ちる可能性があるからです。
そのため、運用が始まったあとも、しっかりAIのアウトプットを確認し、何を学習させるべきか都度判断してアップデートする必要があります。
まとめ
- AIシステム開発プロセスの第1歩であり、最も重要なのが「解決したい課題の決定」である
- 課題を決める方法として、例えば1日に1回以上発生する業務をリストアップし、その中から8~9割の工程が自動化されると、人件費削減等のメリットがあるものを選ぶとよい
- AIシステム開発において、プロジェクトメンバーの選出が重要であり、少なくとも3部門から参加することをオススメする
- プロジェクト担当は、AIリテラシーが高く、経営陣・システム利用者含む決定に関わる人を納得させることができ、リーダーシップが発揮できる方が望ましい
- 経営陣は、ビジネスインパクトの想定とROI(投資対効果)の判断ができ、プロジェクトの責任がとれる方が望ましい
- システム利用者は、学習に使用するデータの質、AIがアウトプットしたデータの精度を判断でき、システムの実用性を判断できる方が望ましい
- AIの必要性判断において、相談先の選定は保有技術と業界理解度を重視するとよい
- AIシステム設計の構想は、まずは理想形から考え、AIベンダーなどに相談することをオススメする
- システム導入の効果は、年間どれくらいの人件費削減等のメリットがあるか、ROI(投資対効果)を算出する
- 開発の進め方は、スモールスタートしてリスクを抑え、少しずつ進むべき方向を見極めながら開発するアジャイル開発をオススメする
- 運用が始まったあとも、AIのアウトプットを確認し続け、何を学習させるべきか都度判断してアップデートする必要がある
参考サイト
AIシステム開発の参考記事として、アクセンチュア様の「AI導入成功の方程式」をオススメします。