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切削油剤による手荒れの原因と対策

切削加工の現場における手荒れに困っていませんか

この記事は切削油剤メーカーであるサンワケミカル株式会社に記事執筆を依頼し、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」が編集しました。

本記事では切削油剤による手荒れの原因と対策についてまとめています。
この記事を読むことで、切削加工の現場における手荒れの困りごとについて、原因を把握した上で適切な対策を講じることができます。

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切削油剤による手荒れの原因と対策

本記事では、切削油剤による手荒れの原因と対策について下記をまとめています。

  • 原因:切削油剤タイプ別の皮脂への影響
  • 原因:切削油剤のアルカリ成分と皮脂への影響
  • 対策:切削油剤の濃度管理
  • 対策:切削油剤のろ過と更液
  • 対策:保湿クリームとケア

原因:切削油剤タイプ別の皮脂への影響

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切削油剤は大きく分けて不水溶性(油性)と水溶性に分類され、それぞれが皮膚の皮脂に異なる影響を与えます。

下記に不水溶性(油性)切削油剤について3種類、水溶性切削油剤について3種類、それぞれの特徴と皮脂への影響をまとめています。

不水溶性(油性)切削油剤

油性型切削油剤

  • 鉱物油または植物油を主成分とし、脂肪油の極性添加剤を含有
  • 比較的に脱脂作用は弱く、むしろ皮膚に油膜を形成して保護する面もある
  • 長時間接触すると皮脂と混ざり合い、毛穴詰まりによるにきびや毛嚢炎のリスクがある
  • 脱脂度:低~中程度

不活性極圧型切削油剤

  • 鉱物油にリン系や硫黄系などの不活性極圧添加剤を配合
  • 基本的には油性型と同様だが、添加されている極圧剤により皮膚刺激性が高まる場合がある
  • 極圧添加剤は直接的な脱脂作用は少ないが、化学刺激により皮膚バリア機能を低下させることがある
  • 脱脂度:中程度

活性極圧型切削油剤

  • 鉱物油に塩素系などの活性極圧添加剤を配合
  • 活性極圧添加剤の中には皮脂を溶解する性質を持つものがあり、脱脂作用が比較的強い
  • 化学反応性が高いため、皮膚タンパク質と結合して刺激や炎症を引き起こす可能性がある
  • 脱脂度:中~高程度


水溶性切削油剤

エマルジョン型切削油剤

  • 鉱物油(または合成油)を界面活性剤で水に乳化分散させたもの
  • 界面活性剤の作用により皮脂を乳化・除去する効果があり、一部油分が皮膚に残る
  • 界面活性剤による刺激で皮膚炎を起こしやすく、アルカリ成分の影響も加わる
  • 脱脂度:中~高程度

ソリュブル切削油剤

  • 鉱物油(または合成油)と高濃度の乳化剤の混合物
  • 高濃度の界面活性剤を含み、アルカリ性であるため脱脂作用が強い
  • 連続接触により皮脂が過度に取り除かれ、皮膚バリア機能を低下させる
  • 脱脂度:高程度

ソリューション切削油剤(シンセティック)

  • 水溶性の合成化合物を主成分とし、油分をほとんど含まない
  • 水溶性成分のみで構成され、通常はアルカリ性であるため脱脂作用が最も強い
  • 油分による補充効果もなく、頻繁な接触により皮膚の自然な保湿バランスが崩れやすい
  • 脱脂度:非常に高い

原因:切削油剤のアルカリ成分と皮脂への影響

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水溶性切削油剤は一般的にpH8~10の弱アルカリ性に調整されています。
しかし、油剤に含まれるアルカリ成分の濃度が高い場合、弱アルカリであっても皮脂への脱脂作用が強くなるため注意が必要です。

pHが高いと一般的に鉄に対する防錆力が高く、腐敗しにくいという特性があります。
しかし、性能ばかりを重視して作業者の健康被害に繋がるような設計では、長期的に安心して使用することは難しいと考えます。

また、防錆力や耐腐敗性はアルカリ成分だけで決まるわけではありません。

切削油剤に含まれる主なアルカリ成分

水溶性切削油剤には様々なアルカリ成分が含まれており、それぞれが異なる性質と皮膚への影響を持っています。

アルカリ成分は皮膚の皮脂と反応して石鹸化(ケン化)反応を起こし、皮脂を乳化して洗い流しやすくします。
また、健康な皮膚は弱酸性(pH 4.5~5.5)ですが、アルカリ成分により皮膚表面のpHが上昇すると、自然な防御機能(酸性マントル)が弱まります。

また、強アルカリ成分は皮膚のケラチンタンパク質を変性させ、バリア機能を低下させることで水分損失の増加につながります。

下記に水溶性切削油剤に用いられる代表的なアルカリ成分の性質と皮膚への影響をまとめています。

アミン類

  • モノエタノールアミン(MEA):強いアルカリ性と皮膚刺激性を持つ
  • ジエタノールアミン(DEA):MEAより刺激は弱いが長時間接触では刺激リスクあり
  • トリエタノールアミン(TEA):3種のエタノールアミンの中で最も刺激が少ない
  • イソプロパノールアミン(MIPA): エタノールアミンに類似した性質を持つ
  • ジシクロヘキシルアミン:強いアルカリ性と防錆特性を持つ

水酸化物

  • 水酸化カリウム(KOH): 強アルカリで皮膚腐食性が強い
  • 水酸化ナトリウム(NaOH): 非常に強いアルカリ性で皮膚腐食性が強い

ホウ素化合物

  • ホウ酸:弱酸だが水溶液中でアルカリ性に傾く特性を持つ
  • ホウ酸ナトリウム(ホウ砂):弱アルカリ性で緩衝作用がある


対策:切削油剤の濃度管理

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切削油剤の濃度管理は手荒れ対策において重要です。

水溶性切削油剤の場合、使用液の濃度は20倍(5%)前後が一般的に推奨されます。
使用濃度が高くなるとアルカリ濃度も高くなるため、皮脂の脱脂作用が強くなり、手荒れのリスクが高まります

高濃度での使用が必要な加工条件の場合は、標準濃度でも十分な性能を発揮する製品を選ぶことが手荒れ防止に効果的です。

切削油剤タイプ別の濃度管理方法

下記に切削油剤タイプ別の濃度管理方法をまとめています。

不水溶性(油性)切削油剤

  • 油性形・不活性極圧形・活性極圧形:原液で使用するため希釈による濃度管理はない。定期的な清浄度管理が重要

水溶性切削油剤

  • エマルジョン:通常10~30倍(10%~3.3%)で希釈。20倍(5%)前後が推奨。高濃度では脱脂作用が強まり、低濃度では防錆性や潤滑性が不足
  • ソリュブル:15~25倍(6.7%~4%)程度の希釈が一般的。界面活性剤含有量が多く、高濃度で特に脱脂作用が強くなる
  • ソリューション:20~50倍(5%~2%)と幅広い希釈範囲。油分を含まないため5%でも脱脂作用が強く、推奨濃度の厳守が重要

対策:切削油剤のろ過と更液

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水溶性切削油剤は定期的な更液が必要です。
理想的には半年から1年での更液が推奨されます。

半年おきの更液は腐敗劣化の防止だけでなく、タンク内の清浄度維持として重要です。
前工程や工作機械の摺動部から持ち込まれる潤滑油など様々な油分や、切粉などの堆積によるタンク内の汚染を防ぐことで、油剤の長寿命化と切削性能の安定化につながります。

切削油タンク内に浮上した油分を回収するオイルスキマーや切粉排出機などの清浄設備が整っている工作機械であれば、更液頻度を延ばすことも可能です。

最適な更液頻度を見極めるには、定期的な使用液の分析が効果的です。

切削油剤タイプ別のろ過と更液方法

効果的なろ過と更液を実現する上でのポイントは、定期点検の実施、オイルスキマーの効果的な使用、フィルター管理、定期分析、そして更液時のタンク清掃が挙げられます。

特に水溶性切削油剤では浮上油が表面積の5%以上を覆った時点でオイルスキマーによる回収を行うことが推奨されます。

下記に切削油剤タイプ別のろ過と更液方法をまとめています。

不水溶性(油性)切削油剤

  • 油性型:微生物による腐敗リスクは低いが、1~2年程度での更液やろ過が必要。マグネットセパレーターやカートリッジフィルターによる不純物除去が効果的
  • 不活性極圧型:1~1.5年での更液が推奨。極圧添加剤の劣化を考慮した管理が重要
  • 活性極圧型:活性極圧添加剤の消費や分解が早いため、約1年での更液が推奨。高負荷加工では更液頻度を上げる必要あり

水溶性切削油剤

  • エマルジョン:微生物繁殖リスクが高く、半年での更液が望ましい。夏季は特に注意が必要。オイルスキマーによる浮上油除去が特に重要
  • ソリュブル:微生物繁殖リスクがあり、半年~1年での更液が基本
  • ソリューション:微生物繁殖リスクは比較的低いが、無機塩や合成有機化合物の濃縮による問題が発生。半年~1年での更液推奨


対策:保湿クリームとケア

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手荒れ対策のための保護具として手袋は一つの選択肢ですが、作業性が悪くなったり、人によっては肌がむれて症状が悪化することもあるため、一概に推奨できるものではありません。

高品質な切削油剤の使用と適切なスキンケアの両方を取り入れることをお勧めします。
特に、作業後(休憩前)のこまめな手洗いと保湿ケアの組み合わせが効果的です。

下記に手荒れ対策に適切な保湿クリーム選びのポイント、効果的な手荒れ対策習慣をまとめています。

保湿クリーム選びのポイント

  • 高保湿成分含有:セラミド、ヒアルロン酸、グリセリンなどの保湿成分が豊富に含まれているもの
  • バリア機能:撥水性や油分を含む製品は外部刺激から手を保護し、水分蒸発を防ぐ
  • 低刺激性:切削油を扱う現場では、香料や着色料の少ない低刺激製品を選ぶ
  • 使用感:作業中に使いやすい、ベタつきにくく伸びの良いテクスチャのもの

効果的な手荒れ対策習慣

  • こまめな保湿:手を洗うたびに保湿クリームを塗り、常に皮膚を保護する
  • 寝る前の集中ケア:寝る前に厚めにクリームを塗り、必要に応じて手袋を着用する
  • 適切な洗浄剤使用:アルカリ性の強い洗浄剤は避け、弱酸性やアミノ酸系洗浄剤を選ぶ
  • 定期的なスキンチェック:皮膚の状態を定期的に確認し、症状の悪化を早期に発見する

サンワケミカル株式会社の紹介

今回記事を執筆いただいたサンワケミカル株式会社を紹介します。

サンワケミカル株式会社では、作業者の健康と快適な作業環境を重視した切削油剤の開発を行っています。

手荒れ対策に特におすすめなのが「スーパークリーンANSシリーズ」です。
このシリーズはもともとは腐敗劣化に伴い発生する悪臭を抑えることを目的として設計した油剤で、同時に手荒れしにくい特性も備えています。

悪臭の中にはアルカリ成分に由来するアンモニア臭のような特異臭もありますが、スーパークールANSシリーズは劣化時の臭いだけでなく、水で希釈した直後の新鮮な状態でも臭気を抑えた設計になっています。

原料として使用するアルカリ成分や界面活性剤を厳選し、添加量にも細心の注意を払うことで、悪臭と手荒れの同時対策を可能にしています。
この製品は作業者の健康と作業環境の両方を考慮した、現場の声から生まれた製品と言えます。

また、サンワケミカル株式会社では濃度・pH・菌数と必要に応じて潤滑性や他油の持ち込み量などを分析するサービスを提供しています。
目安として1ヶ月ごとの定期分析を行うことで、使用液の状態変化を確認し、最適な更液タイミングを知ることができます。

編集長コメント

「切削油剤による手荒れの原因と対策」いかがでしたか。

切削加工業界における職場環境の悩みの1つが、切削油剤による手荒れであると認識しています。

切削油剤を変更するだけでなく、それ以外にも対策方法があるため、手荒れに悩んでいる方は本記事を参考にしていただけると嬉しいです。

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ライター・執筆者情報

hattori


本記事は切削油剤メーカーであるサンワケミカル株式会社に執筆いただき、タクミセンパイの服部が編集しました。

私は工具メーカーでの営業とマーケティングの経験を活かし、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」を2020年から運営しています。
私(服部)の実績や経歴については「運営について」に記載しています。

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