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長期休暇に備える工作機械メンテナンスのチェックポイント

長期休暇前の工作機械メンテナンスに関する情報を探していませんか

この記事はキカイカタログを運営するテクトレージに記事執筆を依頼し、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」が編集しました。

本記事では工作機械メンテナンスのチェックポイントについてまとめています。
この記事を読むことで、休み明けにスムーズな生産再開を実現するための、長期休暇前に実施するべき工作機械メンテナンスのチェックポイントを確認することができます

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長期休暇に備える工作機械メンテナンスのチェックポイント

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マシニングセンタや旋盤、そのほか様々な工作機械を稼働させている事業者の皆さまが長期休暇を迎える前に、ぜひ振り返っていただきたいキーワードがあります。

それは「生産効率」です。

製造現場にとって生産効率の最大の敵は 「工作機械の停止」です。
ここで言う工作機械の停止とは、単に稼働を止めることではなく、「動かしたいときに動かせない」 状態を指します。

特に年末年始、ゴールデンウィーク、お盆休みなどの長期休暇は日々稼働する工作機械をリフレッシュさせる絶好の機会である一方、長期間の停止による再稼働トラブルといったリスクも伴います。

「休み明けに工作機械が動かない」といった事態を防ぐためにも、長期休暇前のメンテナンスは欠かせないポイントです。

本記事では休み明けにスムーズな生産再開を実現するために、長期休暇前に実施するべき工作機械メンテナンスのチェックポイントをご紹介します。


なぜ長期休暇明けに工作機械の故障が頻発するのか

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日々、フル稼働をしている工作機械は常に熱を持ち、液体や気体が循環し、通電している状態です。

しかし、長期休暇を迎えるタイミングで工作機械を突然停止させると、機械内部に蓄積する金属粉や切粉、埃などのコンタミ(異物)が沈殿する他、長期間機械が冷却された状態になるなど普段とは異なる状況となります。
この普段と異なる状況から工作機械を再稼働させることで、故障のリスクを高めてしまいます。

皆さまは準備運動なしに突然激しい運動をして、体に不調を感じたりケガをしてしまったという経験はないでしょうか。
工作機械も同様で、長期休暇によっていつも以上に準備が整っていない状況で運転が再開されるため、予期せぬトラブルへとつながってしまいます。

だからこそ、長期休暇前から普段通りの運転ができるように、しっかりと準備しておくことが大切です。


長期休暇明けにありがちな工作機械のトラブルとは

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長期休暇明けに起こりうる工作機械のトラブルは、シーズンによって異なります。
お盆明けの夏場には工作機械に搭載された電子機器に関する不具合が、年末年始明けの冬場には機械本体もしくは機械部品の故障が多くなる傾向にあります。

工作機械に搭載された電子機器に関する不具合が夏場に多くなる理由の一つが温度です。

そもそも電子機器は熱に弱く、夏場の製造現場では制御盤内の温度が60℃、湿度が80%以上になるということも珍しくありません。
そのような過酷な環境下では工作機械に搭載された電子機器が故障しやすく、制御基板や軸サーボアンプなどの破損が発生する可能性が非常に高くなります。

NC制御装置は電源をOFFにした状態でも内部データを保持するためのバッテリーが内蔵されており、通常3~5年の耐久性があります。

しかし、工作機械のバッテリー交換を忘れてブレーカーを落として長期休暇に入ってしまうと、休暇中にバッテリーが寿命を迎えた場合に内部のデータが消えてしまったという事例も多くみられます
特に動作を制御するプログラムが消えてしまうと工作機械の運転が再開できないといったトラブルにつながってしまいます。

一方、冬場の寒い時期はパッキン・シールなどのゴム系やエアホースなどのポリウレタン、PVC系が硬くなって割れが発生しやすくなり、工作機械で油漏れやエアー漏れが発生する原因となります。

油漏れやエアー漏れは目では確認できない工作機械の部位にも発生するため、機内でリークすることによってシリンダーやバルブの動作不良などが起こってしまいます。

また、油が冷たくなることで粘度が高くなり、管内での動きが悪くなります。
普段の工作機械の稼働においては大きな問題にはなりませんが、長期休暇で油内のコンタミが沈殿することでタンク内のセパレーターが詰まってしまったり、パッキンと固着してシリンダーが動かなくなるといった不具合の原因となってしまいます。

その他にも長期休暇明けに工作機械のドアが開かない、といったトラブルも考えることができます。


長期連休前に実施したい工作機械の点検・保全チェックポイント

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①工作機械本体の清掃

まず初めに簡単に行える工作機械の保全活動の一つが清掃です。

切粉や切削油剤の汚れでこれまで見えなかった工作機械の部位に不具合の原因が隠されている場合があります。

本来、日常の運転からこまめに清掃することをオススメしますが、長期休暇前に工作機械の外装のふき取りはもちろん、機内に溜まった切粉や汚れを丁寧に掻き出しましょう。

しっかりと工作機械を清掃することで普段の操作では見つけにくいスライドカバーの割れなど、思わぬ不具合の元を発見できることもあります。

②工作機械のフィルター清掃

工作機械におけるオイル・エアーのフィルターや構成部品の汚れ具合を確認しましょう。

普段は工作機械が問題なく動いていていたとしても、稼働が停止することで汚れが剥がれ落ちてしまい、思わぬところで詰まりが発生する可能性があります。

特に大型プレス機では、コンタミがバルブの小さな穴に詰まってしまい動作不良につながります。
大型プレス機における動作不良が発生した場合、油圧回路が複雑であるため原因究明に非常に時間がかかり、復旧に時間を要してしまいます。

定期的に工作機械フィルターの汚れ具合を確認することが望ましいですが、日々の作業時間に対応するのが難しい場合には、少なくとも長期休暇前に確認して清掃することをオススメします。

③工作機械の作動油・潤滑油残量の確認と定期的な交換

工作機械は作動油や潤滑油の補充が必要です。
本来日常点検で行うべき項目ではありますが、作動油や潤滑油の残量確認と補充はついつい忘れてしまっている場合もあるのではないでしょうか。

新品の作動油はほぼ透明ですが、劣化が進むと黄色→赤茶へと変色していきます。
作動油の色が濃くなってきたら継ぎ足しではなく交換するように心がけましょう。

劣化した作動油を使用し続けるとシリンダーパッキンなどにダメージが入り、いずれ油漏れの遠因となります。
交換する作動油は切削や研削などの加工機であれば32番、プレス機であれば46番が定番ではないでしょうか。

もし適切な作動油が分からない場合には、工作機械の仕様を確認して正しい粘度(VG値)の作動油を使用しましょう。
また工作機械によっては番手だけでなく油種が指定されている場合もありますので、交換の際はしっかりと確認をしましょう。

潤滑油については、工作機械主軸のミストエア、ボールねじやLMガイドにグリス補充をおこないましょう。

タンクに入れた油が自動で補充される工作機械もありますが、グリスガンを使用して直接手動で入れる必要がある工作機械もあります。
手動での作業が必要な工作機械の場合、長期連休前にカバーを取り外して直接補充するようにしましょう。

④工作機械のNC保持バッテリー期限の確認

NC制御装置やシーケンサーには、電源が完全に遮断されても内部で一定期間稼働するバッテリーが搭載されています。
しかし、バッテリーの残量が少なくなってきた時に全ての工作機械がアラーム等で知らせてくれるわけではありません。

バッテリーが無くなっていることに気づかずブレーカーを落としてしまい、工作機械の制御装置に保存されている加工プログラムや動作プログラムが全て消去されるという事故が発生することも珍しくありません。

工作機械ごとにバッテリーの交換期間が定められているので、長期休暇前にバッテリー期限を確認し、余裕をもって交換しましょう。

そしてバッテリー交換時には、必ず工作機械の電源が入った状態で交換しましょう。
工作機械の電源を切った状態でバッテリーを抜くとデータが消えてしまいますので注意が必要です。

また工作機械のバッテリー交換時に次回の交換予定日をメモなどで見える箇所に記録しておけば、日常的に確認できて忘れずに対応できます。
保有している工作機械の台数が多い製造現場においては、リストを作成して計画的に交換することをオススメします。

⑤工作機械のNCデータや制御プログラムのバックアップ

前述した工作機械のバッテリー交換によって基本的にデータの消去は起こりません。
ただし、誤って工作機械のNCデータや制御プログラムを消去してしまった場合や、何らかの不具合で記憶媒体ごと故障した時に備え、データのバックアップを取っておくことも重要な保全ポイントです。

PCをつないでバックアップを取る方法が一般的かと思いますが、工作機械の仕様によっては手順が異なる場合もあります。
そのため、必要に応じて工作機械メーカーに依頼してバックアップ用データをとってもらうことも一つの選択肢です。

工作機械の使用状況や頻度に応じてバックアップを取るタイミングは現場ごとに異なりますが、少なくとも長期休暇前には行うように心がけましょう。

また、保存する容量に余裕があれば上書きでバックアップを取るのではなく、毎回新規で保存しておくことをオススメします。
保存した過去データが財産になる場合があります。

⑥工作機械の切削油剤交換

切削加工の場合、水溶性切削油剤を使用している事業者が多いのではないでしょうか。

水溶性切削油剤は火災のリスクが少なく安価である点がメリットですが、水であるため腐敗が進むことがあります。
特に夏場は切削油剤の液温が上がって微生物にとって快適な環境になるため、微生物が増加して刺激臭の原因となります。

休暇明けに切削油剤を原因とした悪臭が作業現場に漂うといったことも考えられます。

タンク内の切粉などが配管に詰まって切削液が出ないという不具合を防ぐためにも、切削油剤は定期的に交換を実施しましょう。
切削油剤交換のタイミングでタンク内の清掃も行うとよいでしょう。

⑦工作機械のエアー・油もれ確認

工作機械のエアーや油の漏れは、たとえ少量であっても長期間にわたると大きなコスト負担につながります。

長期休暇中は工作機械をはじめとする様々な設備が停止しているため、エアー漏れの音を聞き取りやすく、漏れ箇所を探すには最適なタイミングです。

エアー漏れの箇所を確認する方法として、対象箇所に石鹸水を吹きかけると、視覚的に漏れ箇所を特定しやすくなります。
油漏れを確認する場合は、専用の着色剤を使用し、ブラックライトで照らすと漏れ箇所が明るく光る製品もあります。

⑧工作機械周辺機器の点検

長期休暇前のメンテナンスは工作機械ばかりに意識が向いてしまいますが、工作機械をとりまく周辺設備の点検も重要です。

恒温室などで加工を行っている場合は、エアコンや除湿器などの周辺機器を点検・清掃しましょう。
恒温が保てないことで加工できなくなってしまう製品もあるため、点検・清掃によって加工が停止することを防ぐことができます。

動力関係ではエアーコンプレッサーやドライヤーに水が溜まっていないかを確認しましょう。
エアーに水が混入すると配管内に錆が発生し動作不良の原因となってしまいます。

また、測定機器の校正が必要な場合もあります。
日常点検で実施していることが多いかと思いますが、長期休暇前に今一度確認しておくと安心です。


工作機械の本格稼働前に

長期休暇明けに工作機械を本格稼働させる前に、可能であればその前日に電源と運転準備(油圧)をいれて暖気運転をしてから再稼働させましょう。

作動油や制御基板が十分に温まったら、あらかじめ用意した暖気用の動作プログラムを使って工作機械を稼働させます。
低速低回転から始めて徐々に動かしていくことで、工作機械で不具合が発生していないかを確認することが可能です。

工作機械稼働開始の前日にチェックを行えば、万が一不具合が見つかっても対応する時間が生まれ、長期休暇明けの稼働をスムーズに迎えることができます。


工作機械の稼働を止めない計画的な点検・保全の重要性

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長期休暇明けに工作機械の稼働を止めないポイントは、休暇前の点検だけでなく、日常の計画的な点検・保全が重要です。
計画的に点検・保全を実施することで、定期的な交換や修理を行うことができ、工作機械の突発的な故障による停止リスクを大幅に減らすことができます。

日常の計画的な点検はチェックリストなどで管理することに加え、稼働中の音・振動・異臭などの違和感に気づくことも大切です。
音・振動・異臭などの官能検査によって、異常の兆候を察知することができます。

日常の計画的な点検で発見した主軸の異音やボールねじの異音、振動など交換や修理に時間のかかる不具合は、長期休暇中に対応することで機械停止による影響を最小限に抑えることができます。

また、同じ工作機械を同時期に複数導入している場合、故障するタイミングが重なることが多く、生産ラインが同時に停止するリスクもあります。
工作機械が複数停止してしまう事態を避けるためにも、計画的な点検・保全を意識的に実施しましょう。

そして、長期休暇前には日常の計画的な点検項目の再確認に加え、普段の業務では難しい大掛かりな点検を行うことで、休暇明けにスムーズで安定した工作機械の稼働が実現できます。


長期休暇に備える工作機械メンテナンスのチェックポイントまとめ

今回ご紹介した長期休暇前の工作機械メンテナンスのチェックポイントは以下のとおりです。

  • 工作機械本体の清掃
  • 工作機械のフィルター清掃
  • 工作機械の作動油・潤滑油残量の確認と定期的な交換
  • 工作機械のNC保持バッテリー期限の確認
  • 工作機械のNCデータや制御プログラムのバックアップ
  • 工作機械の切削油剤交換
  • 工作機械のエアー・油漏れ確認
  • 工作機械周辺機器の点検


本記事で紹介した工作機械メンテナンスのチェックポイントは一例に過ぎませんが、日々の計画的な点検・保全とあわせて実施することで、休暇明けに「動かしたいときに動かせない」といった状況を避け、スムーズな再稼働が実現できます。

安心して休暇を迎えるためにもぜひ、長期休暇前の工作機械メンテナンスを実施してみてください。


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編集長コメント

「長期休暇に備える工作機械メンテナンスのチェックポイント」いかがでしたか。

長期休暇前の工作機械メンテナンスについて、役に立つ情報が不足していると感じてテクトレージ(キカイカタログ)に依頼させていただきました。
工作機械を大切に使われている皆さまが、より長期的に利用できる情報となれば嬉しいです。

キカイカタログでは、業界ニュースとして「タクミセンパイ」の他、「金型しんぶん」「ロボットダイジェスト」「日本工作機械工業会」「製造現場ドットコム」などのニュースがまとまっています。
切削加工業界の情報を効率的に収集できるためオススメのサイトです。

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ライター・執筆者情報

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本記事はキカイカタログを運営するテクトレージに執筆いただき、タクミセンパイの服部が編集しました。

私は工具メーカーでの営業とマーケティングの経験を活かし、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」を2020年から運営しています。
私(服部)の実績や経歴については「運営について」に記載しています。

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