切削加工の歴史を見て学ぶことができる大和ミュージアムをご存じですか。
本記事では大和ミュージアムに訪問し、切削加工業界関連の歴史に関する展示をまとめています。
この記事を書いた私は工具メーカーでの営業・マーケティングの経験を活かし、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」を2020年から運営しています。
歴史的に重要な工作機械が展示されている大和ミュージアムで見て学ぶことができる切削加工の歴史について記事を執筆しました。
切削加工の歴史を見て学ぶことができる大和ミュージアムとは

大和ミュージアム(呉市海軍歴史科学館)は、日本一の海軍工廠の町として栄えた戦艦「大和」を建造した呉について、明治以降の歴史と造船・製鋼を始めとした各種「科学技術」を紹介する博物館です。
大和ミュージアムでは、戦艦「大和」の建造に関係深い工作機械を中心に、切削加工業界に関連した展示を見ることができます。
大和ミュージアムの概要は下記です。
| 施設名 | 大和ミュージアム(呉市海軍歴史科学館) |
| 運営会社 | 大和ミュージアム運営グループ |
| 工作機械展示点数 | 3台 *2026年7月時点 |
| 所在地 | 〒737-0046 広島県呉市中通1丁目1-2 |
| アクセス方法 | ・JR呉線「呉駅」より徒歩で約5分 ・「呉港」より徒歩で約1分 ・「呉IC」より車で約5分 ・「阿賀IC」より車で約10分 |
| 開館日 | 2005年4月23日 *2026年4月23日リニューアルオープン |
| 開館時間 | 9:00~18:00 火曜日は休館(火曜日が祝日の場合は翌日休館。無休の期間あり) *事前に公式サイトで開館日をご確認ください |
| 公式サイト | 大和ミュージアム 公式サイト |
大和ミュージアム「呉の歴史」で見ることができる切削加工業界関連展示
大和ミュージアムの「呉の歴史」エリア(1F)で見ることができる切削加工業界関連展示をまとめています。
写真:呉海軍工廠の機械工場

「呉の歴史」エリア(1F)の展示パネルの1つとして、明治後期の呉海軍工廠(こうしょう)機械工場の写真を見ることができます。
造機部において艦船の動力となる機関を製造している風景写真(明治38年(1905年)撮影)で、天井のラインシャフトから伸びたベルトで機械が稼働していることがわかりまます。
パネルおよび模型:呉海軍工廠の大型工作機械

「呉の歴史」エリア(1F)の展示パネルの1つとして、戦艦「大和」の建造に必要な砲身と装甲鈑を呉海軍工廠で量産するために、ドイツから世界最大級の旋盤とプレス機が導入されたことが紹介されています。
旋盤の1つである大型旋盤15299機は屋外展示で実物を見ることができます(後述)

1万5千トン水圧プレス機を再現した模型もパネル前に展示されていました。
ドイツのヒドロリック社(Hydraulic)から輸入され、戦艦「大和」のVH甲鈑など各種甲鈑の加圧鍛錬に使用され、終戦時に進駐軍の指示でスクラップにされました。
大和ミュージアム「科学技術展示室」で見ることができる切削加工業界関連展示

大和ミュージアム 科学技術展示室の「呉海軍工廠と広海軍工廠」エリア(2F)では、実物の工作機械と工場を再現した風景や資料を見ることができます。
科学技術展示室は2026年4月のリニューアルオープンにあわせて新設されました。
大型竪旋盤 12913機

「呉海軍工廠と広海軍工廠」エリア(2F)に展示された「大型竪旋盤 12913機」は、明治43年(1910年)にアメリカから呉海軍工廠 造機部に輸入されました。
2022年まで稼働していたため、ほとんどの部品は現存していたと考えられますが、展示品はバイトホルダー部分のみとなっています。
壁にバイトホルダー以外の部品等が印刷されており、壁と含めて見ると全体をイメージすることができます。
「大型竪旋盤 12913機」のモーター部分は、日本工業大学 工業技術博物館に展示されています。

「大型竪旋盤 12913機」は直径6メートルの製品を加工する能力を持っており、砲塔を構成するリング状部品やプロペラなどの様々な部品を加工し、戦艦「大和」の建造時にも各種部品を削ったとされています。
パネルの写真では、大型艦向けのプロペラを旋削している様子を見ることができます。
戦後、民間企業に払い下げられた「大型竪旋盤 12913機」は、建設用クレーンの製造などに使用されました。
スカイツリーを建設する際に使用された4基の特注タワークレーンの加工にも使用されています。
「大型竪旋盤 12913機」はIHI運搬機械(現在は事業をタダノインフラソリューションズとして引継ぎ)にて2024年に解体され、大和ミュージアムに寄贈されました。
小型旋盤

「呉海軍工廠と広海軍工廠」エリア(2F)に展示された小型旋盤は、米国製(刻印はPRATT & WHITNEY)で、カタログ形式から大正から昭和初期に製造・輸入された可能性が高いとされています。
戦後、旧海軍の施設を引き継いだ機関に残されていました。
資料:工具鋼一覧

「呉海軍工廠と広海軍工廠」エリア(2F)に展示された「工具鋼一覧(大正13年(1924年))は、呉工廠 製鋼部で製造されていた工具用鋼材の一覧表です。
工具鋼の種類や特色、用途や寸法等がまとめられています。
工廠内で使用する工具については、鋼材から製品への加工まで可能であったことが窺えます。
鉱業研究所(現:三菱マテリアル)における「タングステン・カーバイドの製造・研究(1923年)」とほぼ同時期の資料であり、現存する切削工具の資料としては最古の1つではないでしょうか。
資料:機械工作写真帖

三菱重工業が開発した大型機向けの発動機「火星」を第十一海軍 航空廠 発動機部で生産するにあたり、工作方法の改善に関する研究を行った結果や図をまとめた報告書です。
写真には工作機械が映っています。
パネル:工作機械の研究拠点

広工廠 造機部にて、工作機械の研究や製造が行われていたことがパネルで紹介されています。
昭和14年(1939年)、広工廠には工作機械実験部が設置され、終戦まで海軍唯一の工作機械研究拠点として活動しています。
その他イメージを膨らませるための展示

大和ひろば(1F)には、10分の1戦艦「大和」が展示されています。
「大型旋盤 15299機」が削った主砲身を模型から想像することができます。

大型資料展示室(1F)には、戦艦「大和」の46センチ主砲の砲弾が展示されています(実物)。
砲弾を見ることで、主砲の大きさをイメージすることができます。
大和ミュージアム 野外展示(大型旋盤 15299機)

大和ミュージアム 屋外展示において、「大型旋盤 15299機」を見ることができます。
こちらは年中無休、無料で見ることができます。

戦艦大和の主砲を削るためにワグナー社(ドイツ ドルトムント市)から1938年に輸入された「大型旋盤 15299機」は、全長40m、躯体幅5m、高さ5m、「面盤」直径3.2m、重さが約219トンありました。
現在展示されている姿は、呉海軍工廠 砲煩部 砲身工場に設置された姿とは異なります。
当時の購入代金は約45万円で、現在の価値に換算すると数億円ともいわれています。

「大型旋盤 15299機」が展示された施設ガラス面には、使用期間や性能などが記載されています。
大型旋盤 15299機のストーリー
呉海軍工廠 砲煩部 砲身工場にて戦艦大和の主砲身を削った「大型旋盤 15299機」のストーリーについて、きしろ商事の「金属&樹脂加工Navi」より抜粋して紹介します。

ワグナー社(ドイツ ドルトムント市)から1938年に輸入された「大型旋盤 15299機」は、呉海軍工廠 砲煩部 砲身工場に設置されて戦艦大和の主砲身(外径)を削りました。
戦艦大和が誇る世界最大級の主砲身は口径446cm、長さ20.7m、重さが166トンありました。
呉海軍工廠にはワグナー社の大型旋盤が2台存在していたようです。
GHQの指導により1台の旋盤は破壊されましたが、もう1台の15299機は奇跡的に終戦の難を逃れました。
1953年、「大型旋盤 15299機」は神戸製鋼所 高砂工場に払い下げられます。
神戸製鋼所では大型タンカー用のクランクシャフトを削りました。
1991年、最新機の導入により、神戸製鋼所での役目を終えた15299機はしばらく眠りにつきます。
神戸製鋼所から船舶用品の切削加工を請け負う株式会社きしろの播磨工場長が倉庫に眠っていた「大型旋盤 15299機」に注目します。
15299機はまだ現役で稼働すべき設備で、技術の継承にも役立つと判断しました。
1996年、きしろ播磨工場に「大型旋盤 15299機」が搬送され、5年ぶりに再稼働します。
きしろでは大型船舶用のプロペラ軸などを削りました。
2013年、最新機の導入により、きしろ播磨工場でも15299機はその使命を果たし、遊休機械として工場内に保管されます。
歴史的価値の高い「大型旋盤 15299機」をこのまま処分するのは忍びないと考え、きしろは「大和ミュージアム」への寄贈を申し入れます。

一方、大和ミュージアムは、新型コロナウイルスの影響を受けて来館者数が4分の1に激減し、さらに感染対策費がかさんでいました。
コロナの影響で、「大型旋盤 15299機」をきしろ播磨工場から大和ミュージアムへ輸送して設置する財源の確保ができないという問題に直面します。
そこで、財源確保の解決策としてクラウドファンディングを2021年8月3日に開始します。
クラウドファンディングはわずか1日で1億円が集まり、最終的に寄付総額269,480,000円を達成しました。
寄付者6,626 名の熱い想いにより、「大型旋盤 15299機」輸送の財源問題を解決することができました。

2023年3月5日、69年ぶりに呉の地に帰ってきた「大型旋盤 15299機」の除幕式が開催され、一般公開されました。
おまけ:てつのくじら館(海上自衛隊呉史料館)の展示

「てつのくじら館(海上自衛隊呉史料館)」は、潜水艦を中心とした展示を無料で見ることができる施設です。
大和ミュージアムの道路向いにある施設です。
てつのくじら館の潜水艦「くろしお」1/20カットモデルにおいて、制御盤室に置かれた汎用旋盤のミニチュアを見ることができます。
大和ミュージアムとあわせて訪問されてみてはいかがでしょうか。
編集長コメント
「大和ミュージアムで切削加工の歴史を見て学ぶ」いかがでしたか。
本記事とあわせて読んでいただきたい記事を紹介します。
ヤマザキマザック工作機械博物館の展示物とも関連性の高い内容として、「戦前の日本における工作機械・切削工具と切削加工の歴史」を読んでいただくと、工作機械の技術変遷を確認できると思います。
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執筆者情報

本記事はタクミセンパイの服部が執筆・編集しました。
私は工具メーカーでの営業とマーケティングの経験を活かし、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」を2020年から運営しています。
私(服部)の実績や経歴については「運営について」に記載しています。
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