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切削工具改善コンテスト2024 結果発表

タクミセンパイが主催となって開催する切削工具に特化したオンラインイベント「切削工具フェス2024」の企画の1つが「切削工具改善コンテスト2024」です。

本記事では2024年7月に開催した切削工具改善コンテスト2024の結果を発表しています。

JIMTOF2024連動企画 JIMTOF2024連動企画

切削工具改善コンテストについて

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2024年7月1日から7月31日まで開催された「切削工具フェス2024」の企画の1つとして、切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)を対象として、切削工具の改善に関するコンテストを開催しました。

切削工具の改善とは、採用中の切削工具を新しい工具に改善(変更)して生産性を向上させることと定義しています。
タップから高性能のタップに変更することも、タップからスレッドミルに変更することも切削工具の改善に該当します。

切削工具の改善によって工具技術者がもっと評価される社会にしたいという想いで、切削工具の改善を競うコンテストを開催し、タクミセンパイが頑張る皆さまを表彰させていただきます。

コンテストの詳細ページはこちらです。

タクミセンパイ大賞

株式会社武井製作所の三枝様が「タクミセンパイ大賞」を受賞されました。
おめでとうございます。

受賞内容の応募者情報、工作機械情報、被削材情報、改善前の加工情報、改善後の加工情報、改善にあたっての担当者の思いを下記にて紹介します。

受賞者情報

会社名株式会社武井製作所
部署名製造部
応募者名三枝 勝 様

工作機械情報

使用した工作機械の種類複合旋盤
使用した工作機械
メーカー
シチズンマシナリー
使用した切削油剤
 メーカー(型番)
タイユ
(ハイチップ SX-507K)

被削材情報

加工する被削材の材料名S45CL
加工する被削材のカテゴリ一般機械関連の部品
加工する被削材の月間生産量350個/月

改善前の加工情報

改善前の切削工具の種類ボーリング
改善前の加工条件取り代0.2mm、周速75m/s、
送り(F)0.03mm/min
改善前の加工時間10秒
改善前の切削工具の寿命150個/コーナー
改善前の課題切削油のかかりが悪く工具寿命が短い

改善後の加工情報

改善後の切削工具の種類ボーリング
改善後の切削工具
メーカー(型番)
京セラ
(TBGT060102MP-CF PR1535)
*改善前から変更なし
改善後のツーリング
メーカー(型番)
ホルダー:曽根田工業
(C10-STUBR06-08V-140)
*改善前から変更なし

スリーブ:GLOBE
(CS-1025)
改善後の加工条件取り代0.2mm、周速75m/s、
送り(F)0.03mm/min
スリーブの変更で切削油剤の当て方を変更
改善後の加工時間10秒
改善後の切削工具の寿命600個/コーナー
改善後の定量的な
メリット
・チップ寿命が100個~150個/コーナーから600個/コーナーに改善
・面粗さ規格Rz8.0に対して、150個時点でRz7.0~Rz8.0から600個時点でRz6.0~Rz6.5に改善
改善後の定性的な
メリット
・寿命のバラツキや面粗さの管理にいつも気を使って精神的に疲れていたが、管理が楽になった

改善にあたっての担当者の思い

今回は3回目の応募なので少し視点を変えた改善にしてみました。

NC旋盤で内径加工のボーリングバイトを取り付けているスリーブを新しいものに変えてみました。
使っているチップとホルダーは一緒で、取り付けるスリーブの改善となります。

加工内容は内径加工のシート仕上げ工程となります。

深いところの加工で切削油剤が当たりずらいことと、刃先温度の上昇でチップ寿命も短いことが課題でした。
深い場所の加工なので、外からでは刃先に切削油剤が全く当たらない状態でした。

今回交換したスリーブは特殊な形状で、外からかける切削油剤をスリーブの決まった場所に当てるとツール沿いに流れる構造になっているため、深い場所でもしっかりと十分な量と勢いの切削油剤を当てることができます。
これによって特殊な工具を買うことなく、切削油剤の供給ができるようになりました。

使用している切削工具とホルダーではなく、スリーブの変更による切削油剤の当て方にスポットを当てた改善は社内の評判も良く、ヨコテンを少しずつ進めています。
汎用的なものなので、どの設備にも付けることができて、使い方によっては切削油剤の供給だけでなくワークやホルダーに絡まった切粉を洗い流すこともでき、加工中の歩留まり改善にも一役買っています。


応募内容紹介①

残念ながら大賞は受賞されませんでしたが、素晴らしい切削工具の改善事例として掲載の許可をいただいた応募内容を紹介します。

応募者情報

会社名株式会社松永製作所

工作機械情報

使用した工作機械の種類マシニングセンタ
使用した工作機械
メーカー
DMG森精機
(Dura Vertical 5060)
使用した切削油剤
 メーカー(型番)
ペトロプラン
(ペトロナス INDL SE-3200)

被削材情報

加工する被削材の材料名SUS304
加工する被削材のカテゴリエネルギー関連の部品
加工する被削材の月間生産量5~10個/月(多い時は50個/月)

改善前の加工情報

改善前の切削工具の種類フェイスミル
改善前の加工条件回転(S)1,000min-1、送り(F)600mm/min、
切り込み(Z)0.5mm
改善前の加工時間30分
改善前の切削工具の寿命1個加工するだけでチップがかけてしまった
改善前の課題・6Fの板に厚み20mm穴の径が75mm。荒加工をヘリカルで74.8mmまで広げて最後にエンドミルで仕上げるのですが、1個加工しただけでチップが欠けたりしてもたなかった
・加工時間も30分くらいかかっていたので時間短縮もしたかった

改善後の加工情報

改善後の切削工具の種類高送りカッター
改善後の切削工具
メーカー(型番)
タンガロイ
(EXN03R040M32.0-06-C)
  Lチップ
 (LNMU0303UER-ML AH3225)
改善後のツーリング
メーカー(型番)
BIG DAISHOWA
(BT40-HMC32S-105)
改善後の加工条件回転(S)960min-1、送り(F)5,760mm/min、
切り込み(Z)0.3㎜
改善後の加工時間7分
改善後の切削工具の寿命チップは欠けもなく、50個はダレもなく交換なしで加工できた
改善後の定量的な
メリット
・加工時間を15~20分短縮できたこと
・1個加工してチップの交換をしていたのが交換なしで加工できるようになったので交換時間もなくなった
・チップの交換なしで50個加工できたこと
改善後の定性的な
メリット
・加工してみないとわからないことを商社の人やメーカーの人に聞くことで改善できることがわかった

改善にあたっての担当者の思い

SUSの加工はほとんどやったことがなかったので良い条件を探すのに苦労した。
他にも色んな工具を使って試したが上手くいかなかった。

商社の人やメーカーの人に聞いて工具を紹介してくれたのでよかったです。
加工してみないと上手く加工できるかわからないことを相談する大事さがわかりました。

上手くいった時の達成感が嬉しかったです。
加工することやモノづくりが楽しくなりました。

これからも上手くいかない時があるかもしれませんが改善できることはしていきたいです。

応募内容紹介②

残念ながら大賞は受賞されませんでしたが、素晴らしい切削工具の改善事例として掲載の許可をいただいた応募内容を紹介します。

工作機械情報

使用した工作機械の種類マシニングセンタ
使用した工作機械
メーカー
オークマ
使用した切削油剤
 メーカー(型番)
NEOS
(クリアカット XE-4)

被削材情報

加工する被削材の材料名A5052
加工する被削材のカテゴリ半導体関連の部品
加工する被削材の月間生産量25~50個/月

改善前の加工情報

改善前の切削工具の種類エンドミル
改善前の加工条件回転(S)8,500min-1、送り(F)3,600mm/min、
ap3.5㎜、ae1~0.5㎜
改善前の加工時間35分
改善前の課題・切粉の大きさ
(加工の問題はなし)

改善後の加工情報

改善後の切削工具の種類エンドミル
改善後の切削工具
メーカー(型番)
MISUMI
(RFEMS32)
改善後のツーリング
メーカー(型番)
BIG DAISHOWA
(HSKA63-HMC32-110)
改善後の加工条件回転(S)8,500min-1、送り(F)5,500mm/min
改善後の加工時間24分
改善後の定量的な
メリット
・加工時間では約11分短縮
・切粉が細かくなり切粉のボリュームが1/3ほどになり、切粉を捨てる回数が1日3回から2日に1回になった
・工具もハイスで安く入手できた
改善後の定性的な
メリット
・切粉が細かくなるようラフィングに変えたが、カッターのチップをアルミ用に変えるよりソリッドエンドミルをホルダーにつけるだけなので段取りとしても楽になった
・条件は変えるつもりはなかったが、3枚刃から6枚刃になったので送りも上げられ加工時間短縮につながった

改善にあたっての担当者の思い

切粉を捨てるのが面倒なところから思いついた改善だったが、条件、段取とうまく改善できたと思う。

編集長コメント

開催3回目となる切削工具改善コンテストの結果について紹介させていただきました。

タクミセンパイ大賞は第1回でも受賞された武井製作所を選びました。

今回の改善内容は、まさかの切削工具そのものではなく、スリーブに焦点を当てた改善でした。
切削工具がもつ本来の性能を100%引き出すために、スリーブを変更して切削油剤の当て方を変えるという方法で素晴らしい改善に取り組まれていたので大賞に選びました。

切削工具の改善を「採用中の切削工具を新しい工具に改善(変更)して生産性を向上させること」とタクミセンパイ独自に定義していましたが、「切削工具を変更しなくても切削工具の性能を高めて生産性の向上は可能である」という新たな視点を与えていただけました。
次回の切削工具改善コンテストの開催時は、切削工具の改善の定義に対して可能性を広げて募集したいと考えています。

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執筆者情報

hattori


本記事はタクミセンパイの服部が執筆・編集しました。

私は工具メーカーでの営業とマーケティングの経験を活かし、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」を2020年から運営しています。
私(服部)の実績や経歴については「運営について」に記載しています。

タクミセンパイとして収集した最新情報をもとに、ここでしか読めない独自視点の記事や調査データを提供しています。
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