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海外の切削加工を知る:ベトナム編

切削工具と切削加工業界の情報を発信するポータルサイト「タクミセンパイ」をご覧いただきありがとうございます。
当サイトを運営する編集長の服部です。

本記事では「ベトナム(特に南部)で使われている工作機械と切削工具のメーカー情報など、現地の切削加工」についてまとめています。
「日本人が現地で活躍するために知っておきたい知識についても触れており、ベトナムに出張される方や海外赴任される方にとって有益な情報」をお届けします。

*本記事はベトナム現地で金型製造に携わるライター「cheさん」に作成いただき、編集させていただきました。

【記事の信頼性】
本記事を書いた私(服部)は2014年から切削加工業界に携わり、2020年から「タクミセンパイ」を運営しています。

工具メーカーで営業として500社以上の切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)に訪問し、技術支援をさせていただきました。
また、マーケティングとして展示会とイベントの企画・運営、カタログとWEBサイトの大型リニューアルプロジェクト、ブランディングプロジェクトを経験しました。

営業とマーケティングの経験をもとに、切削加工業界で働く皆さまに向けて本記事を執筆しています。

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ライターcheさんについて

1977年生まれ、東京都出身。2008年にベトナムへ移住。

現在(2023年)はホーチミン市近郊の日系製造業で社内製造部門が使用する精密順送プレス金型の設計、製造、修理をする部門の責任者をしています。
また、工作機械があるので製造設備の部品の設計や製作をすることもあります。

海外駐在の任期は3~5年が多いですが、私の場合は無期限です。
この経緯は割愛させていただきますが、高校時代から海外に移住して、日本の技術などを現地の人に伝えたいという夢があり、2回の転職を経て今の生活にたどりつきました。

ベトナムの基本情報

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ベトナムについて、簡単な紹介をしたいと思います。
テレビやYouTubeなどで無数のバイクが街中を走り回っている映像を観たら、高い確率でベトナムです。

正式名称はベトナム社会主義共和国。
南シナ海に面した東南アジアの国で、北は中国、西はラオス、南西はカンボジアと接しているASEAN加盟国です。

非常に長い戦争の歴史が続きましたが、ベトナム戦争終結後の1976年に現在の国家になりました。

ベトナムは南北に細長い形をしており、北部、中部、南部に分かれます。
首都は北部のハノイ、最大の経済都市は南部のホーチミン市です。

日本に置き換えると、首都は東京だけど、経済の中心は大阪、みたいになります。

現在、ベトナムの経済は急成長しています。
約15年前、私の住んでいる南部・ホーチミン市に進出している飲食業界や流通業界の日系企業の数は数えるほどでした。
しかし、ここ数年でイオン、すき家、丸亀うどん、高島屋、ココイチ、ユニクロ、MUJIなどの有名店が次々と出店し、日本人としての生活はとても便利になりました。

ベトナムは非常に親日の国で、日本語を話せる人も多いです。
ベトナム人がもつ日本の印象は、礼儀正しく、優しい。そして高い工業技術を持つ国。

日本人というだけで尊敬してくれて、とても親切にしてくれたりしますが、ベトナム人が勝手にもつ期待(イメージ?)に応えられるように、私は「日本人よりも日本人らしく」紳士な振る舞いを常に心がけています。

話は少しそれてしまいましたが、日本メーカーの製品は品質基準が高く、たとえ海外製の製品でも高品質な製品として人気があります。
ベトナム語で「日本の品質基準(日本製の生産設備)で作られた製品です。」と書かれた商品はよく見かけます。

ベトナムに進出している日系製造業は1990年以降が多いです。
トヨタ、デンソー、ホンダなどの自動車関連の企業、キヤノン、日本電産、富士ゼロックスなどの精密機器関連の企業が進出しており、金型や機械部品を製造する下請けは日系だけでなく、ローカル企業も数多くあります。
そして、それらの企業は多くの切削加工関連製品のメーカーや商社などに支えられています。

ベトナムの工作機械について

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日系の工作機械の評価は高く人気があります。
多少のメンテ不足でも壊れない、年数が経っても加工精度が高い(変わらない)のが人気の理由だと思います。
10年以上前は骨董品のような汎用旋盤や汎用フライス盤が修理され、現役で動いているのをよく見かけました。

少し面白いところでは、ローカルの加工業者で旧ソ連製の汎用旋盤を見ました。
構造などに特殊なところはなかったのですが、日本で見たことがありませんでしたから、非常にわくわくしました。

最近はローカルの業者でも日本メーカー製の加工機を新規購入することが増えているそうです。

台湾製、韓国製などの加工機は日本メーカー製よりも価格が10~20%安いですが、耐久性は低いと聞きます。
さらに価格の安い海外製もあるのですが、当たりはずれが大きくなるそうです。

ベトナムでよく見る工作機械は、マシニングセンタ、NC旋盤、汎用研削盤です。
機械部品加工は自動車関連用の円筒ものが多く、金型は自動車のバンパーや配線のコネクター、精密機器の筐体などの射出成形用の金型が多いです。

工作機械メーカー別でみると、総じて東南アジアに製造拠点をもっていたり、東南アジア向けの加工機を展開している日系メーカーの存在感が強いです。
マシニングセンタは牧野フライス製作所、DMG森精機、ヤマザキマザック、ブラザー工業、ファナックなどが挙げられます。

牧野フライス製作所はシンガポールに関連会社がありますし、加工精度でも特に高い評価を得ており、金型加工業者を中心に非常に人気があります。
また、ヤマザキマザックは国営企業や教育機関に多く納品されており、DMG森精機、ブラザー工業、ファナックは安くて高性能などの評価があります。

NC旋盤はオークマやシチズンマシナリーなど。シチズンマシナリーは小物加工品のユーザーに人気です。

汎用平面研削盤については、耐用年数が短いのを割り切って台湾系メーカーを採用する場合も多いです。
台湾の平面研削盤でメジャーなのはケントとパルマリーというブランドで、加工機の個体差が比較的小さいと言われています。
日系メーカー製では東南アジアに製造拠点がある岡本工作機械製作所に集中しています。

ベトナムの切削工具について

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私はベトナムで切削工具を購入する機会が少ないですが、商社などから聞く話では、日系メーカーのシェアは低く、台湾などの(日本からの視点で)海外勢が強いそうです。
加工治具などでも台湾製は品質も悪くなく、しかも価格が日本製の5分の1になることもあります

ベトナムにおける日系企業としては、切削工具メーカーは京セラ、日進工具、三菱マテリアルが、商社は山善、Kamogawaがメジャーです。

(日本からの視点で)海外製が選ばれる理由は、価格だけでなく、ベトナムの加工技術がまだ成熟していない点があるそうです。

現在のベトナム製加工部品に求められるレベルはさほど高くなく、高性能加工機を導入すれば加工できてしまい、切削工具の性能まで求められるケースはまだ少ないそうです。
結果、切削工具の知識には乏しく、注目度も低くなってしまっていると聞きました。

今後ベトナム製加工品にも高品質が要求されてくれば、日系メーカー製の高性能な切削工具に注目が集まるかもしれません。
それがベトナムの加工技術の発展につながりますから、個人的にもそうなってほしいと思います。

ベトナムの情報源について

加工機の導入は、日本本社で選定する場合が多いと思います。

私は日本本社の同列部門の責任者も兼任していて、加工機の選定も担当しています。
そのため、各メーカーの最新情報の収集も重要業務のひとつです。

私がベトナム現地で情報を得ている媒体は主に展示会です。
ご存知の通り工作機械は設置完了でおしまいではなく、長いお付き合いの始まりです。
展示会では最新の機種だけでなく各社のアフターサービス体制までを一度に網羅できますので効率的だと思います。

ホーチミン市内では「MTA Vietnam」と「METALEX Vietnam」という、毎年2つの大規模な展示会があります。
会期は3~4日間で、タイなどの周辺国や日本からも参加するので、それなりの賑わいになります。
台湾、韓国などのアジア各国、欧米系の出展もありますが、日系は全体の4割くらいになると思いますので、ここでも存在感は強いと思います。

規模は毎年大きくなり、一時はホーチミン有数の展示会場(40,000m2)でも入りきらず、仮設テントが増設されるほどでした。
しかし、新型コロナウイルスのパンデミック後はさびしいものになってしまいました。

2023年は以前の活況を取り戻しつつあると感じましたし、最近はホーチミン近郊の都市でも中規模な展示会が開催されるようになりました
ホーチミン市内の展示会と比べると規模は小さめですが、ユーザーの工場から距離が近いため、現場責任者やオペレータをしている若手ベトナム人の来場者が多いのが特徴です。

個人的には、いずれの展示会も実用的な出展が多く、最新加工技術の情報があまりない点に物足りなさを感じます
来場者のニーズなどに合わせれば自然ですが、最新加工技術に関する情報はインターネットに頼るしかなく、限界を感じます。

ベトナムの商社について

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海外での日系商社とのやり取りに不満を感じることはほとんどなく、むしろ良いと思います。

日本での付き合いが長い商社はユーザーの海外進出と同時期に進出し、ベトナム現地での搬入、セットアップなどでお世話になることが多いと思います。
中堅の優秀な方が多く、日本人同士でその国での苦労をお互い知っていますから、よき戦友といった感じです。

ベトナムはホワイト国に指定されていません。
日本製の加工機は仕様によってE/L、輸出許可申請などと呼ばれる輸出貿易管理令に基づく経済産業大臣の承認・許可が必要になる場合があります。

申請、許可が必要な加工機は通称「該当機」と呼ばれます。
この申請方法はアップデートが多く、商社から最新の申請方法を案内してもらったり、申請に必要な書類を準備してもらったりしています。

ローカル商社とのやりとりもありますが、言葉の壁や慣例の違いで、日本人にとっては多少物足りなさや難しさを感じるかもしれません。
私は信頼するローカルスタッフ(ベトナム人の現場責任者や日本語スタッフ)に窓口をしてもらっています。

ベトナム人のスタッフについて

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ベトナム人は他国のアジア、東南アジア人と比べると日本人に似た気質と言われていますが、文化の違い、習慣の違い、考え方の違いはもちろんあり、日本人とは違います。

ベトナム人の人口は9,832万人(2022年時点)、平均年齢は約33歳(2023年時点)。
日本の平均年齢は48歳ですから、若い人が多いです。

識字率は15歳以上で97.85%(2020年時点)と非常に高いのも特徴です。

もちろん全員ではありませんが、向上心が非常に高くて勉強熱心な、いわゆる「意識高い系」が多いです。
若い人ほど「意識の高さ」の傾向は強く、おそらく同世代の日本人よりも多いと思います。
しかし、それでもありえない失敗をしますし、言葉の壁に加え、考え方や習慣の違いもあるだけに、これに苦しむ海外赴任者は多いと思います。

私はここであまり感情的にならず、冷静に考えるといろいろなことが見えてくると考えています。

彼らの多くは農村地帯から現金収入を得るためにやってきていますが、日本で上京するよりも非常に大きなギャップがあります。
また、いくら親日でも日本人の暮らしを知らない人がほとんどです。

例えば、コンビニなどで列を作って並ばず、横入りする話を聞いたことがあるかもしれません。
それは、地元の商店では並ぶ必要があるほど客は殺到しないでしょうし、お店側もそんなことを考える必要もありませんし、法律にもありません。ただ知らないだけだと思います。

実際、最近のベトナムの都市部ではこの考え方が拡まった結果、もともと意識の高いベトナム人はちゃんと並ぶようになりました。

日本人同士でも仕事上のすれ違いは多いと思います。
国レベルで違うし、知らないだけだという口実がある分、お互いやりやすいかもしれません。

組織を上手くコントロールする方法は様々あると思いますが、私の場合は日本の機械加工現場で技能実習をした経験をもつスタッフに現場責任者をしてもらっています。
彼の知る日本人独特の考え方などを基に、私が伝えたいことをくみ取ってもらい、他のスタッフ達にうまく伝えてくれています。

日本人がベトナムで働くことについて

勤務先によって様々ですが、たいてい海外出向手当、住宅手当などがあり、日本での生活よりも経済的、時間的に余裕がある方が多いと思います。
ベトナムの娯楽は限られていますので、自由な時間を持て余しがちですが、友人との会食、趣味・スポーツ、勉強に打ち込む方も多いです。
ベトナム国内旅行の他、タイ、カンボジア、マレーシア、シンガポールなどへの海外旅行も非常に手軽です。

仕事の面では、現地の会社では課長・部長クラスになる場合が多いので、一気に部下が増えます。(私は約40名いますが、製造業では少ない方です)
技術的、設備的なトラブル対応、図面作成だけでなく、事業計画書や予算書の作成、人事考課などの業務もあり、非常に幅広いです。

急に責任が重くなり、経営者の目線も必要になるため、悩む方も多いです。
しかし、もともと将来を期待されて海外赴任を命じられているわけで、様々な経験をすることができるため、出世の近道だと思います。

日本に相談してもまともな回答が得られない場合がほとんどですが、助けてくれる人は目の前にたくさんいます。
スタッフを「教えて育てる」、どこまで任せていいのか見極めるのが、自分にとっても彼らにとっても非常に重要だと思います。

ライターcheさんの機械加工に対する考え方

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この業界は職人さんの経験や勘の方が先行している部分が多いと思います。

私は学生時代に機械加工に関する研究室に配属され、切削加工の知識や加工機の構造などを学問として学びました。
実際に加工をした経験がほとんどないのですが、新卒で日本の会社に入った時代から現在に至るまで、職人やメーカーとうまくやっていけているのは、当時の知識に基づくと感じています。

この業界で言われるものづくりの楽しさは、頭に浮かぶアイデアを失敗しながら自分でカタチにするところだと思います。
単純な加工作業の繰り返しにはせず、同時にものづくりの楽しさを伝えることには常にこだわっていて、これがスタッフのモチベーション向上や現場の改善につながっていると思います。

私は高い加工精度を得るのに不可欠なのは再現性だと考えています。

現在の加工機は補正機能があります。
特に日系メーカー製の加工機は、毎回その通りに動いてくれます。
最も代表的なのは加工機周辺(加工室)の温度の変動ですが、どこまで細かい点に気付いて毎回同じ設定にできるか、ここで再現性が決まって加工精度も決まると考えています。

ライターcheさんよりさいごに一言

2023年現在のベトナムでの切削加工業界の状況や(完全移住は少し特殊なケースかもしれませんが)現地での日本人の仕事や生活環境の一例を紹介させていただきました。

海外での状況は日本と少し違うかもしれませんが、日本の工作機械の性能や加工技術は現在でも世界屈指だと思います。
今後、出張や海外赴任などで海外を経験しながら活躍される日本人の方はさらに増えていくと思います。
海外での刺激や経験を持ち帰って日本の加工技術がさらに発展するとともに、日本由来のものづくりの楽しさが各国へ拡がってほしいと思います。

編集長コメント

「海外の切削加工を知る:ベトナム編」いかがでしたか。

私はベトナムに行ったことがないのですが、本記事からは現地の情景を解像度高くイメージすることができました。
cheさんはものづくりに対する高い情熱をお持ちの方であり、その想いを感じることができる記事になっていると思います。

ベトナムの赴任期間も長く、様々な経験をされているので、切削加工の現場について詳細がわかる記事に仕上がりました。

切削加工業界のZ世代戦略」で触れていますが、世界的に見るとY世代よりZ世代の人数が多く、ベトナムの平均年齢約33歳は日本と大きく異なります。
ベトナムにビジネスパートナーがいる、ベトナムで働くといった場合に、やはりZ世代を意識することの重要性があると認識できました。

ベトナムの切削加工に高い精度を求める時がきた時、日本メーカーが活躍できるチャンスがたくさんあると感じました。

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