タクミセンパイが主催となって開催する切削工具に特化したオンラインイベント「切削工具フェス」の企画の1つが「切削工具改善コンテスト」です。
本記事では2023年7月に開催した切削工具改善コンテスト2023の結果を発表しています。
切削工具改善コンテストについて
2023年7月1日から7月31日まで開催された「切削工具フェス2023」の企画の1つとして、切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)を対象として、切削工具の改善に関するコンテストを開催しました。
切削工具の改善とは、採用中の切削工具を新しい工具に改善(変更)して生産性を向上させることと定義しています。
タップから高性能のタップに変更することも、タップからスレッドミルに変更することも切削工具の改善に該当します。
切削工具の改善によって工具技術者がもっと評価される社会にしたいという想いで、切削工具の改善を競うコンテストを開催し、タクミセンパイが頑張る皆さまを表彰させていただきます。
2023年は下記2つの賞を用意しました。
コンテストの詳細ページはこちらです。
「タクミセンパイ大賞」と「匿名大賞」の大賞が下記に決定しました。
タクミセンパイ大賞
株式会社松永製作所の鈴木様が「タクミセンパイ大賞」を受賞されました。
おめでとうございます。
松永製作所の受賞者インタビュー記事は「切削工具改善コンテスト2023 受賞者インタビュー:松永製作所」をご覧ください。
受賞内容の応募者情報、工作機械情報、被削材情報、改善前の加工情報、改善後の加工情報、改善にあたっての担当者の思いを下記にて紹介します。
受賞者情報
会社名 | 株式会社松永製作所 |
部署名 | マシニングセンタ担当 |
応募者名 | 鈴木裕樹 |
工作機械情報
使用した工作機械の種類 | マシニングセンタ |
使用した工作機械メーカー | DMG森精機株式会社 (NVX5100) |
使用した切削油剤メーカー(型番) | (エアーカット) |
被削材情報
加工する被削材の材料名 | S45C |
加工する被削材のカテゴリ | その他部品 |
加工する被削材の月間生産量 | 18個/月 |
改善前の加工情報
改善前の切削工具の種類 | エンドミル |
改善前の加工条件 | S200 F60 |
改善前の加工時間 | 60分 |
改善前の切削工具の寿命 | 2個くらい加工して刃が欠けた |
改善前の課題 | 刃持ちの悩みと加工時間 |
改善後の加工情報
改善後の切削工具の種類 | 高送りカッター |
改善後の切削工具メーカー(型番) | 株式会社MOLDINO (アルファ高送りラジアルミル ASR多刃タイプ ASRL2040R-6 ロング型) |
改善後のツーリングメーカー(型番) | 株式会社日研工作所 (BT50ミーリングチャック) |
改善後の加工条件 | S1500 F13000 Z0.5 |
改善後の加工時間 | 20分 |
改善後の切削工具の寿命 | 未交換で18個の加工が完了できた |
改善後の定量的なメリット | 幅60.5㎜、深さ128mmの加工において、エンドミルで加工していたときはワークを横にして加工していたので時間と工程数が増えてしまった。 改善後は工程数が1回になったので段取り時間も減って加工時間も短縮できた。 荒加工から仕上げ加工まで終わらせることができるようになった。 |
改善後の定性的なメリット | 加工時間の短縮と刃物のもちと段取り時間が短縮できたこと。 高送りしたことで加工時間はすごく短縮できたこと。 マシニングは頭を使うことが多いが、商社の人に「こんなのがあればいいな」と聞いたことで探してくれたので感謝している。 加工してみないといい結果がでないということもわかった。 これからも改善できるところは取り組みたい。 |
改善にあたっての担当者の思い
加工時間と刃持ちを改善できたことがよかった。 さらに段取り時間も短縮に繋げることができた。
匿名大賞
「匿名大賞」受賞内容の応募者情報、工作機械情報、被削材情報、改善前の加工情報、改善後の加工情報、改善にあたっての担当者の思いを下記にて紹介します。
工作機械情報
使用した工作機械の種類 | 複合旋盤 |
使用した工作機械メーカー | オークマ株式会社 |
使用した切削油剤メーカー(型番) | 株式会社ネオス (HP) |
被削材情報
加工する被削材の材料名 | SUS304 |
加工する被削材のカテゴリ | 半導体関連の部品 |
加工する被削材の月間生産量 | 試作品(1個) |
改善前の加工情報
改善前の切削工具の種類 | フェイスミル |
改善前の加工条件 | V160 F500 |
改善前の加工時間 | 5分20秒 |
改善前の切削工具の寿命 | 不明 |
改善前の課題 | 上面の仕上げ加工において、製品が薄く大きいのでビビリ、外観がイマイチだった |
改善後の加工情報
改善後の切削工具の種類 | 旋削加工用の内径・外径工具 |
改善後の切削工具メーカー(型番) | BIG DAISHOWA株式会社 (F63-DTJNL-45035-16) |
改善後のツーリングメーカー(型番) | BIG DAISHOWA株式会社 (HSK-T63-F63-100) |
改善後の加工条件 | V135 F100 |
改善後の加工時間 | 3分5秒 |
改善後の切削工具の寿命 | 良好 |
改善後の定量的なメリット | 加工時間が2分15秒短縮できた。 1枚刃なので経費削減、チップ交換も早くできる。 プログラムも4パスから1パスで簡単にできた。 |
改善後の定性的なメリット | 5枚刃のカッター(Φ37)から普段使用している外径旋削工具(約Φ90の1枚刃)を回転工具として使用することで、薄物平面の外観(つなぎ目)も良くなり、工具購入費・段取・加工時間など削減できた。 |
改善にあたっての担当者の思い
旋削工具を回転工具として使用するアイデアを実行し、良い結果になって満足している。
応募内容紹介①
残念ながら大賞は受賞されませんでしたが、素晴らしい切削工具の改善事例として掲載の許可をいただいた応募内容を紹介します。
応募者情報
会社名 | 株式会社フジタ |
工作機械情報
使用した工作機械の種類 | マシニングセンタ |
使用した工作機械メーカー | ニデックオーケーケー株式会社 |
使用した切削油剤メーカー(型番) | 株式会社MORESCO (ツールメイトAL) |
被削材情報
加工する被削材の材料名 | SKD61(焼入れ前) |
加工する被削材のカテゴリ | 自動車部品 |
加工する被削材の月間生産量 | 3個/月 |
改善前の加工情報
改善前の切削工具の種類 | 高送りカッター |
改善前の加工条件 | S2500 F5200 切込み0.5mm |
改善前の加工時間 | 4時間45分 |
改善前の切削工具の寿命 | 2時間15分 |
改善前の課題 | ・加工時の振動が大きい ・5~6時間の荒加工になることが多いので同じ工具が3本必要になる |
改善後の加工情報
改善後の切削工具の種類 | 高送りカッター |
改善後の切削工具メーカー(型番) | ダイジェット工業株式会社 (MSG-2025-10-M12) |
改善後のツーリングメーカー(型番) | BIG DAISHOWA株式会社 (BT50-HMC32-135) |
改善後の加工条件 | S1900 F5700 切込み0.8mm |
改善後の加工時間 | 2時間38分 |
改善後の切削工具の寿命 | 2時間30分 |
改善後の定量的なメリット | ・5時間近くかかっていた加工が2時間半に短縮 ・変更前の工具では2本必要だった範囲を1本の工具で加工することが可能になった |
改善後の定性的なメリット | 加工時の振動が少なくなり、主軸への負荷が減った |
改善にあたっての担当者の思い
ダイジェット工業の営業の方との会話の中で新しい工具を提案いただき改善にいたりました。
現場としても思っていた以上の成果があり嬉しく思っています。
社内の技術を高めていくためには、社内で実績のある既存の工具を使い続けるだけでなく、各社から発表される新しい工具を試してみることがとても重要なのだと感じました。
応募内容紹介②
残念ながら大賞は受賞されませんでしたが、素晴らしい切削工具の改善事例として掲載の許可をいただいた応募内容を紹介します。
応募者情報
会社名 | 株式会社武井製作所 |
部署名 | 製造部 |
役職名 | 工場長 |
応募者名 | 三枝 勝 |
工作機械情報
使用した工作機械の種類 | 複合旋盤 |
使用した工作機械メーカー | シチズンマシナリー株式会社 |
使用した切削油剤メーカー(型番) | タイユ株式会社 (ハイチップ SX-507K) |
被削材情報
加工する被削材の材料名 | S45CL |
加工する被削材のカテゴリ | 一般機械関連の部品 |
加工する被削材の月間生産量 | 800個(類似品3種類合計)/月 |
改善前の加工情報
改善前の切削工具の種類 | 旋削加工用の溝入れ・突切り工具 |
改善前の加工条件 | 周速100M F0.03 |
改善前の加工時間 | 40秒 |
改善前の切削工具の寿命 | 200個/コーナー |
改善前の課題 | 寿命と面粗さ |
改善後の加工情報
改善後の切削工具の種類 | 旋削加工用の溝入れ・突切り工具 |
改善後の切削工具メーカー(型番) | HORN (RS111.0250.D2) |
改善後のツーリングメーカー(型番) | HORN (B111.0012.00) |
改善後の加工条件 | 周速130M F0.03 |
改善後の加工時間 | 28秒 |
改善後の切削工具の寿命 | 600個/コーナー |
改善後の定量的なメリット | ・工具寿命が3倍になった 200個交換→600個交換 ・面粗さの向上(品質の向上) 200個加工時でRz6.5~Rz7.0→600個加工時でRz6.0以下 ・非切削時間の短縮 2ロットでチップ交換3回が1回へ |
改善後の定性的なメリット | 新たな切削工具メーカー様との出会いで工具選定の幅が広がった |
改善にあたっての担当者の思い
展示会でHORN様と出会い販売店様が訪問してくれたのがきっかけでした。
コロナ過で受注が減少していることもあり、テストカットで結果が出るまで約2年もかかってしまいました。
最終的に良い結果が出て採用となり、今は少しづつ横展開している状況です。
新たな切削工具メーカー様との出会いで工具選定の幅も広がり大変満足しています。
横展開でも良い結果が出ていますので、今後も活躍してくれそうです。
応募内容紹介③
残念ながら大賞は受賞されませんでしたが、素晴らしい切削工具の改善事例として掲載の許可をいただいた応募内容を紹介します。
工作機械情報
使用した工作機械の種類 | 汎用旋盤 |
使用した工作機械メーカー | 株式会社TAKISAWA (TAC-650 L30) |
使用した切削油剤メーカー(型番) | 出光興産株式会社 (ダフニー ミルクールAL) |
被削材情報
加工する被削材の材料名 | SCM440 |
加工する被削材のカテゴリ | 一般機械関連の部品 |
加工する被削材の月間生産量 | 1~2本/月 |
改善前の加工情報
改善前の切削工具の種類 | 旋削加工用の内径・外径工具 |
改善前の加工条件 | VC=160 Ap2.5 |
改善前の加工時間 | 汎用機なので正確ではないが、朝一番で段取りはじめて荒加工終了で7.5時間ほど |
改善前の切削工具の寿命 | いつ欠けるかわからない。 荒加工で2コーナー使う |
改善前の課題 | 作業時間の短縮、重切削高送りの追求 |
改善後の加工情報
改善後の切削工具の種類 | 旋削加工用の内径・外径工具 |
改善後の切削工具メーカー(型番) | 三菱マテリアル株式会社 (CNMG120408-MP-MC6125) |
改善後の加工条件 | VC=200 Ap=5.0 F0.25 |
改善後の加工時間 | 1日に2本 |
改善後の切削工具の寿命 | 1コーナーで1.5本 |
改善後の定量的なメリット | 1日に1本しかできなかった加工が倍の2本になった。 チップの耐久性、安定性があがりチョコ停が減った。 |
改善後の定性的なメリット | 安心感の向上、安定した加工による心労の軽減 |
改善にあたっての担当者の思い
私の仕事のメインはプラント等の自社大型機械の部品製造で、そのほとんどが1点ものです。
その中で一番大きい部品がメインシャフトで、材質はSCM440、サイズはΦ220 L=2800で、細いところでΦ140になります。
以前であれば取り掛かると荒加工だけで1日潰れるような仕事でした。
仕事を教えていただいた先輩がΦ100以下の小物が得意な人で、サーメットの研ぎつけチップがあれば何でも作ってしまう人でした。
その人にならって上記の材料を削るとどうしてもチップの破損とAPの少なさで時間がかかってしまっていたので、自分自身でチップを試し始めました 各社チップを試し、個人的にはタンガロイのTMブレーカーに一旦落ち着きました。
掃除も楽にできるよう切粉の流れをコントロールして全部つなげてVC=200 AP=4.6 F=0.3で加工し、掃除も全部切粉がつながっているのでクレーンで吊って廃棄でき掃除時間含めかなり早かったのですが、切粉を繋げる行為が安全上不安があるということで上司からNGがでました。
タキサワの TAC650では各社重切削向けのチップを使うと送りをあげずとも切粉は千切れるのですが、切れ味不足でAP4.5越えたあたりで主軸のサーボが止まります。
中切削チップでSCMの粘りでF0.3でも千切れず、それを超え送りをあげるとZ軸のサーボが出力超えで機械が止まると、あちらを立てればこちらが立たず状態で困っていた状態でした。
最近三菱マテリアルのMPブレーカーでAP5.0 F=0.3で安定した切削ができるようになり、さらに条件をあげて実験中です。
仕事を楽にする努力をこれからも続けていきたい所存です。
編集長コメント
2回目の開催となる切削工具改善コンテスト2023の大賞の発表、および素晴らしい切削工具の改善事例として掲載の許可をいただいた応募内容を紹介しています。
今回は6名(6社)に応募いただき、大賞の選考に悩みました。
今回大賞として「株式会社松永製作所 鈴木様」の応募を選びました。
定量的なメリット、定性的なメリットともに素晴らしい改善をされていました。
匿名大賞の応募内容は、「フェイスミル」を「旋削加工用の内径・外径工具」に改善したというユニークな内容でした。
切削加工の面白さがわかる応募で、今後もこのようなユニークな改善の応募を楽しみにしています。
昨年大賞を受賞されている株式会社武井製作所 三枝様もご応募いただいており、感謝しています。
今回大賞を受賞されなかった方は、来年もぜひご応募いただけると嬉しいです。
切削工具改善コンテストは切削工具フェスとして最も成功させたい企画だったため、たくさんの応募をいただき手応えを感じています。
来年も開催しますので、こちらの記事を見て興味をもった切削工具ユーザーの皆さまは参加を前向きにご検討ください。
また切削工具メーカーから切削工具ユーザーへの支援についても期待しています。
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執筆者情報
本記事はタクミセンパイの服部が執筆・編集しました。
私は工具メーカーでの営業とマーケティングの経験を活かし、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」を2020年から運営しています。
私(服部)の実績や経歴については「運営について」に記載しています。
タクミセンパイとして収集した最新情報をもとに、ここでしか読めない独自視点の記事や調査データを提供しています。
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