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【展示会レポート】切削加工業界のプロたちはEMO2023をどう見たか

切削工具と切削加工業界の情報を発信するポータルサイト「タクミセンパイ」をご覧いただきありがとうございます。
当サイトを運営する編集長の服部です。

本記事では「EMO2023に参加した切削加工業界のプロフェショナルたちが、会場で何を見て、何を感じたのか」提供いただいた情報をまとめています。
「出展社がどのような業界に向けた展示をしていたのか、どのようなトレンドを感じることができたのか」がわかる記事になっています。

【記事の信頼性】
本記事を書いた私(服部)は2014年から切削加工業界に携わり、2020年から「タクミセンパイ」を運営しています。

工具メーカーで営業として500社以上の切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)に訪問し、技術支援をさせていただきました。
また、マーケティングとして展示会とイベントの企画・運営、カタログとWEBサイトの大型リニューアルプロジェクト、ブランディングプロジェクトを経験しました。

営業とマーケティングの経験をもとに、切削加工業界で働く皆さまに向けて本記事を執筆しています。

JIMTOF2024連動企画 JIMTOF2024連動企画

はじめに

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EMO2023公式サイトより


2023年9月18日(月)~23日(土)の期間に、ドイツのハノーバー国際見本市会場にてEMO2023が開催されました。
EMO2023に参加された切削加工業界のプロフェショナルの方から、展示を見て感じたことを情報として提供いただきました。

切削工具の開発・製造・販売に携わる方(株式会社イワタツール 代表取締役社長 岩田様、株式会社東鋼 統括本部 統括本部長 寺島様 他)、工作機械や切削工具を使われている部品加工業の方から情報を提供いただいています。
情報提供者の中には医療関係部品の加工に精通している方、半導体関係部品の加工に携わる方が含まれています。

EMO2023に出展した切削工具メーカー

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EMO2023公式サイトより


EMO2023に出展した日本で知名度の高い切削工具メーカーは下記となります。

  • イスカルジャパン株式会社
  • 株式会社イワタツール
  • NTK カッティングツールズ株式会社
  • エムーゲ・フランケン株式会社
  • オーエスジー株式会社
  • 京セラ株式会社
  • グーリングジャパン株式会社
  • 株式会社ジーベックテクノロジー
  • 住友電工工業株式会社
  • ダイジェット工業株式会社
  • 株式会社田野井製作所
  • 株式会社タンガロイ
  • 株式会社日研工作所
  • 日進工具株式会社
  • BIG DAISHOWA株式会社
  • 株式会社不二越
  • マパール株式会社
  • 三菱マテリアル株式会社
  • 株式会社彌満和製作所
  • ユニオンツール株式会社


*五十音順にて掲載

どのような業界に向けた展示だったか

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EMO2023公式サイトより

  • 自動車(ガソリン車・EV)、航空機、医療、半導体業界に関する展示が中心であった
  • 自動車について、EV関連部品の展示は目立っていたが、内燃機関部品とミッション部品も同規模で展示されていた。EVを推進するヨーロッパ最大の展示会であるため、EV中心と予想していたが、まだまだガソリン車も重要と考えられている
  • EV化の流れは止められないが、内燃機関も引き続き重要なマーケットと考えられており、今後10~20年は大きく減少しないと各社考えているようだった
  • 航空機について、エンジン部品の展示など国内より展示スペースが広く、加工事例のバリエーションも豊富であった
  • 医療について、日本では展示の少ない医療関係部品(人工股関節など)の展示スペースが大きく、具体的であった(医療の展示スペースが大きく具体的だったのは、2023年11月にドイツで開催される展示会「MEDICA」(世界最大の医療機器見本市)が開催されることも背景にあると考えられる)
  • ドイツも日本同様に仕事がない状態となっており、次の一歩をどのように踏み出していくのか躊躇しているように感じた。そのため、EV関連部品と内燃機関部品が混同していたり、医療業界に向かおうとしている風潮があって医療関係部品の展示が目立っていたと予想した

どのようなトレンドを確認できたか

EMO Hannover 2023
EMO2023公式サイトより

工作機械関連

  • 日本とドイツでイメージしているDXの考え方が異なる。日本企業(中小企業含めて)と比較して、ドイツ企業は専用機を導入する傾向にあるので、DXや自動化も加工対象や企業の体制にチューニングされている場合が多い
  • 工作機械メーカーの出展は3軸加工機がほぼ見られず、ヨーロッパらしいと感じた
  • 専門化について、工作機械メーカーによっては特定の業種を意識している企業が多い。精密加工や、超量産加工に向けた展示をしている。自動盤メーカーにも多く見受けられる。これらのメーカーは設備の展示のみでなく、加工事例、加工条件、使用した切削工具に至るまでトータルに展示している。航空機関連に特化したメーカーは、市販の工具では高剛性の機械の性能を発揮できないとして、切削工具もオリジナルのものを開発・展示、実演加工をしている
  • 海外の工作機械(デザイン)について、海外の機械は人間工学に基づいて機械設計が行われている。いかに人の動きを最小限にできるかの視点で、画面構成、ボタン配置、機械のレイアウトを考えて開発されている。例えば日本の機械を操作する時、機械の後ろに周ったり、動き周る必要がある。しかし、海外の機械では、立ち位置を変えずに操作を最小限で完結することができる。 また、切削工具等を管理する画面、プログラムを作る画面などにデータを入力する時、FANUCでは画面変更するために5回程の操作が必要であるが、ハイデンハインでは1回ボタンを押せば目的の画面に到達する。これでは作業に時間がかかるだけでなく、新人が操作を覚えるまでの時間が全く異なる。ハイデンハインがTNC640からTNC7にバージョンアップし、更なる進化をしていた。 FANUCからも2023年5月に型番i30番台から10数年ぶりに500番台が発表された。しかし、両者の進化スピードは全く異なる。ハイデンハインの機械を2013年に導入したが、既に3回バージョンアップしている。 2〜3倍の進化速度を感じている。 この違いから、海外ではFANUCからハイデンハイン、シーメンスへ制御装置が変わってきているのではと感じた。工作機械の制御において、欧州ではFANUCはほぼ無く、5軸はハイデンハイン、複合加工はシーメンスになっている。中国もハイデンハインを使用していた。 日本は操作において「慣れること」を正義としているが、ドイツは「効率化、合理性」を正義としており、欧州人の考えの違いが製品に出てる気がする。 ハイデンハインTNC7制御装置の中に機械シミュレータが搭載され、完成度が格段にアップしていた
  • 松浦機械の松浦室長と会場で話す機会があり、 新しい操作画面や機械の改善点をみせていただいた。大きな進化があり、かなり好印象だった。 ユーザーの声を聞いて、一からシステムを作り替えたとのこと。 今後、かなり期待できそうだった

切削工具・ツーリング関連

  • 日本と比較してヨーロッパでは5軸マシニングセンタが浸透しているため、展示されている加工品や切削工具も5軸に特化しているように感じた
  • 国内展示会(JIMTOF2022)と規模や展示方法は異なるが、切削工具メーカーの出展コンセプトに関しては「工程集約」「デジタルツイン」など、日本と違いはないように感じた
  • 切削工具の高速加工について。従来より欧州の切削工具の要求事項は高速化にある。これは、日本とは根本的に異なる。加工速度が上がれば価格が上がること、および工具寿命が低下することについて許容される。今回出展していないサンドビック、ワルターに限らず、エムーゲ・フランケン、マパール、グーリングなどの大手メーカーの他、専門中小工具メーカーまで加工速度を上げるというコンセプトが一貫している
  • アジアの切削工具メーカーについて、台湾、韓国、および中国メーカーは着々とレベル、存在価値を高めている。これらのメーカーは、価格勝負だけではなく体力勝負になってきているため、品質向上や新しい発想の工具を出展するところも多い。ただし、これらのメーカーのオリジナル技術であるか否かは判断しずらい。大手メーカーに限らずコピー品を堂々と出しているメーカーもあり、特許問題もはらんでいる。しかし、工作機械でもそうであるが、精度、品質のばらつき等、以前では使い物にならない場合が多くあったが、それほど差がない製品が出てきているのも事実である。また、これらの設備投資意欲は非常に高く、最新鋭の設備を継続して導入している。ただし、大幅に低価格をうたうメーカーは、上記の低価格設備を使用しているため、高精度とは言えない工具を量産、販売している場合もある。加工速度、寿命、精度が重要でない加工においては、十分高いコストパフォーマンスを発揮する
  • 切削工具の内部給油について、日本においても特にドリルにおいて内部給油が普及しているが、EMOにおいてさらに多くのコンセプトの内部給油製品が出展されていた。それらのほとんどは、加工速度を向上させることを目的としている。また、内部給油切削工具においては、素材メーカーの役割が大きい。多くの素材メーカーは、多岐にわたるスルークーラント用の超硬工具素材を発表している。場合によっては標準在庫を進めており、広い適用範囲の内部給油工具の生産に対応している。さらに、これらの技術はアジアの素材メーカーにも広がっている
  • メガキャスト(ギガキャスト)の登場により、大型金型に対応した全長の長いホルダー需要が出てきていると感じた

ロボット関連

  • JIMTOF2022と同じく、工程集約の訴求が目立っていた。複合加工機にロボットを合わせた工程集約や自動化提案など
  • 日本と異なり工場のスペースが広いからか、ロボットでの段取り自動化など加工以外の自動化提案がみられた
  • 自動化について、ロボット、AGV等を使用した自動化がさらに拡大している。特にロボットを使用した自動化は、多品種少量生産に対応するものや、機内、準機内測定、そして測定機を含めた自動測定、自動補正に踏み込むものが多数展示されている。HERMLE社などの出展では、ワーク着脱、小型ワークパレットチェンジ、グリッパー交換、ワーク固定治具の爪交換、測定など、一台のロボットで多岐にわたる自動化を展示している。少量多品種における自動化において、おそらく多くの実績を積んできたであろう展示を行っていた
  • 産業用ロボットに関して、KUKAなど数社を見学して話を聞いた。協働作業ロボットに関しては、あまり刺激的な内容はなかった。その理由は、先月東京で観た中国(深圳)系のロボット(EMO2023には出展していなかったに脅威を感じたため。今後、AGV機や協働作業ロボットは必須になると感じている。普及させるためには「コスト」と「使いやすさ」がポイントと考えている。最近、飲食店でも搬送に中国製ロボットを良く見かけるが、進化のスピードが全く異なる。また、ユーザーの声を聞く姿勢が貪欲に感じた。おそらく中国ではライバルが多いため、ユーザーの声を聞いてスピーディに開発・改善しなければ淘汰されるのではと感じた  

その他

  • 工具研削盤について、従来小径工具や特殊形状工具などにより、工具研削盤メーカーの住み分けのようなことがあったが、徐々にオーバーラップしている。また、台湾、中国メーカーなどの実力も徐々に上がってきており、一部の量産企業に納入されている。ただし、絶対的な精度においては、トップクラスの精度を初期および長期的に確保はできていないのが実情である。数年前からレーザーによってのみ可能な形状、例えば掘り込み形状のチップブレーカーやPCBN・PCDを中心に加工技術が実用段階に入ってきている。今回はφ1mm以下の小径工具や超硬工具において、研削による加工が可能であった領域までレーザーにとって代わる可能性が出てきている
  • 金属3Dプリンターについて、航空宇宙産業はじめ、いくつかの実用領域が生まれるとともに実例の展示が充実している。レーザーを使った積層と切削を組み合わせたものなどは、十分量産も含めて可能になってきている
  • 全ての出展においてトピックとなる全く新しい概念の出展はほとんど見られなかった。Industory4.0をはじめとするIoT・DXに関する技術も、以前と比較して盛り上がっているということはない。ただし、これらの出展は日本と比較してハノーバーでの出展の方が充実している。一部、ベンチャー企業や大学の発表などのコーナーにより新しい研究は引き続き行われている

EMO2023と現地ドイツについてその他情報

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EMO2023公式サイトより

  • 4年ぶりのハノーバー開催。コロナ後の本格的な再開という面が大きい
  • 2021年はミラノ開催であったが、もともと国際展示会であるハノーバー開催に対して、イタリア国内の展示会という認識をされることが多い。出展を見合わせるメーカーも多く、特に2021年は閑散とした状態であったことが、出展社より報告されている
  • 今回のハノーバーにおいても、コロナ前と比較して開催規模が縮小している。これは、コロナの問題というより、ハノーバーで開催されるEMOそのものに対する出展社、来場者の変化があると考える。使用する展示館の数の減少のみでなく、一部の展示館はパーテーションを区切り、使用していない建物もあった。さらに、多くの出展社で装飾や工作機械の展示台数を削減するなど、経費を絞っているメーカーが見受けられる。大手切削工具メーカ等一部の出展社は、方針の変更なのか出展そのものを取りやめている
  • EMOは商談の場である。ハノーバーはドイツの北部に位置しており、地元の工業が多いわけではなく、技術者が多く集まる展示会ではない。ヨーロッパおよび世界中からバイヤーや流通、メーカーのVIPが集結する。そのため、製品の展示に比べて商談室の設置、場合によってはブース内に大きなレストランを併設している、夕刻からはビールやワインを飲みながら信頼関係や、今後の商談を決定する。企業のトップ・責任者がヨーロッパ各国の代理店に毎年訪問するのも困難であるため、展示会場で完結することも重要である
  • 各社商談スペースを広く用意しており、食事をしながら商談をしている風景もあった。展示内容よりも対人関係を大切にしている印象だった
  • 会場内にビールの販売カーがあり、日本とは異なる文化を感じた
  • 国内の展示会と比較すると、どのブースも大きく見応えがあった。 また、アルコール含めた飲料や食事を提供しているブースも多かった
  • ゆっくり椅子に座りながら話をするのは、ヨーロッパの展示会スタイルと言える。 そのため、1つのブースに長居してしまうこともあるので、視察には余裕を持つ必要がある
  • カタログをUSBやデータで配布している出展社もある。 帰国時の荷物になってしまうので、データ送付を打診してみてもよい
  • ブースが広いことから、加工サンプルの展示が多く、どの切削工具メーカーも見応えがある。日本でよく見るコンパニオンやブース前でのノベルティ配布、バーコードのスキャンなどは見られないので、気になるブースには自ら入り、スタッフに話を聞くことをオススメする
  • EMOと他の展示会の方向性について、ドイツのシュツットガルトではAMBという大きな展示会が開催される。メルセデスベンツなど地元の製造企業が多く、非常に多くの技術者が集まる。そのため、新技術に対して来場する技術者からフィードバックを得ることができ、出展企業によっては新製品発表はEMOではなくAMBという場合もある。また、ヨーロッパのほとんどの流通でディーラーもこの展示会に参加している。大手工作機械メーカーのトップでは、EMOよりもAMBの方を重視するという意見もある。ただし、EMOの場合は世界中から集まってくる特性が大きく異なる。今回、EMOの出展を控えた企業の多くは、ドイツメーカーが多いとの意見もあった
  • EMO2023視察において€の両替は一切行わず、電子マネーで全て支払いを完了することができ、キャッシュレスが進んでいることを感じた(一部のタクシーは現金のみらしく、注意が必要)

編集長コメント

「切削加工業界のプロたちはEMO2023をどう見たか」いかがでしたか。

EMO2023に出展した切削工具メーカーについて、サンドビック、ケナメタル、セコ・ツールズの出展がありませんでした。
サンドビックとセコ・ツールズはJIMTOF2022にも出展しておらず、展示会には力を入れない方針であると推測しました。

切削加工の提案先の業界としては、自動車(ガソリン車・EV)、航空機、医療、半導体業界であるとのことでした。
自動車はEV中心だろうと私も予想していましたが、まだまだガソリン車も重要なマーケットであり、今後10~20年はガソリン車の製造が続くという貴重な情報を提供いただきました。

プロフェショナルだからこそ気付くことができる業界の変化は、参考になる情報ばかりでした。
しかも、異なる分野に属した複数のプロの視点で展示が見られているため、多角的な情報になっており、非常に価値のある記事になったと感じます。

情報提供にご協力いただいた皆さま、ありがとうございました。

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