切削工具と切削加工業界の情報を発信するポータルサイト「タクミセンパイ」をご覧いただきありがとうございます。
当サイトを運営する編集長の服部です。
今回、有限会社三井刻印 専務取締役の三井 豊様にインタビューさせていただきました。
はじめに
有限会社三井刻印について簡単に紹介させていただきます。
有限会社三井刻印について
1912年(大正元年)に創業された、100年以上の歴史をもつ彫刻業出身の会社です。
現在は金属刻印の製造・販売のほか、小径工具の製造・販売もしております。
取扱製品としては、外径φ1㎜以下のPCDエンドミル・超硬エンドミル・CBNエンドミルをオーダーメイドで製作しています。
1. オーダーメイド小径工具事業を始めたキッカケ
タクミセンパイ服部(以下、服部):オーダーメイド小径工具の事業を始めたキッカケを教えてください。
有限会社三井刻印 三井 豊様(以下、三井様):1990年代中頃、今後の刻印受注の大幅減を危惧した当社会長が「自社の技術や経験を活かして何かできないか」と検討したのが、オーダーメイド小径工具事業の始まりでした。
2000年には理化学研究所に当時在籍されていた安斎博士・高橋博士からの素材提供をキッカケに小径CBN刃具の開発をスタートし、同年からテスト販売を開始しました。
当時は小径CBNエンドミルが市販されておらず、恐らくではありますが小径CBNエンドミルの製品化は当社が国内初であろうと思います。
CBNは素材の特性上、周速を上げないと本来の性能が発揮できず、当時は高速回転の主軸を持つ工作機械が少なかったことや、高硬度材への微細加工のニーズがなかったため、大手工具メーカーが販売しなかったのかもしれません。
服部:今では当たり前の小径CBNエンドミルを三井刻印様が初めて製品化されたのは驚きました。当時は小径CBNを使うための工作機械などの環境がそろっていなかったんですね。
2. 刻印事業が活きている場面
服部:刻印事業がどのようにオーダーメイド小径工具の事業に活きているか教えてください。
三井様:切削による刻印製造は、彫刻機と専用工具(彫刻刃)を使った微細切削加工のため、加工後の修正などは一切できず、機上で仕上げまでの全工程を終わらせる必要があります。
このことから、彫刻加工業者は「切れ味のいい刃物、切れ刃以降の逃げがいい刃物」を自社で製作して使用していました。
彫刻加工業時代の経験が、現在のオーダーメイド小径工具の事業に活きています。
3. オーダーメイド小径工具の実績
服部:オーダーメイド小径工具の実績を教えてください。
三井様:2000年からオーダーメイド小径工具の事業を開始し、現在までに約900社(商社含む)のお客様との取引実績があります。
1回の注文本数は、少ない場合だと1~3本、多い場合でも20~30本といったケースが多数を占めています。
4. オーダーメイド小径工具のニーズ
服部:オーダーメイド小径工具がどのような業界や被削材のニーズが多いか教えてください。
三井様:ジャンル問わず、幅広い業界の方から依頼をいただきますが、部署としては試作・開発が多いかと思います。
対象となる被削材も幅広く、鋼材・非鉄金属・樹脂・硬脆性材など、多岐に及びます。
5. 三井刻印の技術面・サービス面の強み
服部:三井刻印様のオーダーメイド小径工具の技術面・サービス面の強みを教えてください。
三井様:オーダーメイドの切削工具を取り扱っている会社は他にもありますが、小径のオーダーメイド切削工具に対応できる会社は少ないので、対応できること自体が強みの1つです。
また、マニュアル研磨機で多品種・少ロットに対応できることも強みの1つです。
当社は彫刻加工業をルーツとした会社で、ユーザー目線での商談ができることも強みであろうと考えています。
サービス面については、依頼時のコミュニケーションロス回避のためにエンドユーザーとの直接取引というスタイルを取っており、製作時に必要な情報のヒアリングを常に実施しています。
具体的には対象となるワークの材質や加工形状、工具に求める性能、他社製工具での不満点などを伺い、適した工具のご提案をしています。
また、自社製品限定にはなりますが、再研磨も対応しています。
オーダーメイド品である当社工具は安価ではないため、再研磨については積極的にお客様に提案しています。
その他にも、極小径の場合は再利用という形でお客様に提案しています。
「使える価格・使える納期」をモットーに、「当社が作りやすい工具=お客様が使いやすい工具」という思想の下、ご提案しています。
服部:ユーザー目線で商談してくれるのは、相談するユーザーの皆様にとっては嬉しいですね。「使える価格・使える納期」のモットーは、ユーザーファーストで素晴らしいと思いました。
6. 要望の多い工具径
服部:よく依頼される工具径は何φ㎜でしょうか。
三井様:特にどのサイズが多いという事はありませんので、φ1㎜以下であれば何でもご相談ください。
実績のある最小径としては、PCD工具のR0.005㎜(外径φ0.01㎜)などがあります。
また、他社さんでは規格外となるような中途半端な寸法などを依頼されることもあります。
7. 要望の多い工具種
服部:PCD工具、超硬エンドミル、CBNエンドミルの中でどれがよく依頼されるか教えてください。
三井様:事業開始の2000年当時は、小径CBNエンドミルを取り扱っているメーカーがなかったため、CBNエンドミルの比率が大きかったです。
大手メーカーがCBN工具のラインナップを拡充するにつれ、当社におけるCBNエンドミルの販売比率は下がりました。
現在の販売数の割合は、超硬エンドミルが約5割、残り5割をPCDエンドミルとCBNエンドミルが分ける形となっています。
8. オーダーメイド小径工具をつくる技術者
服部:オーダーメイド小径工具をつくる技術者について教えてください。
三井様:現在は3名のスタッフで対応しています。
マニュアルの研磨機による作業のため、作業者毎の生産能力や対応能力のバラつきは少なからず発生してしまいますが、高倍率のモニタリングシステムの導入など、研磨機の各部改良を行うことで製品レベルのバラつきは最小限に抑えています。
9. オーダーメイド小径工具の生産量
服部:1日あたりの生産数量がどのくらいか教えてください。
三井様:製作難易度で大幅な開きが発生しますので一概には回答できません。
1日で1人あたり1本しか製作できない仕様もあれば、1日で1人あたり20~30本製作可能な仕様もあります。
納期については、「オーダーメイドながら3週間以内」としており、これは当社会長の「使えない納期は存在しないことと同じ」という考えを大事にしています。
10. 小径工具のニーズの変化
服部:2000年以降の小径工具のニーズの変化について教えてください。
三井様:事業開始当初(2000年頃)と比較して、小径工具のニーズは増えていると感じています。
今後、様々な製品・部品が高性能かつ軽薄短小になっていくことが予想されるので、小径工具のニーズは更に増えると期待しています。
また、微細加工や精密加工に適した工作機械も増えてきていることも合わせて、ユーザーの増加につながればと考えています。
編集長コメント
インターモールド2021に出展されていた三井刻印様に声をかけさせていただいたところから、今回のインタビューが実現しました。
オーダーメイド工具の中でも、小径に特化することで差別化を実現する三井刻印様は、刻印事業からスタートされたことによって技術面・サービス面の強みを獲得されたことがわかりました。
自動車部品に限らず部品が小型化しているく中で、小径ニーズは増えると予想されますので、三井刻印様の今後の活躍に目が離せません。
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