
市場規模を確認するために、NC工作機械で金属を切削加工している人数を知りたいと困っていませんか。
この記事を書いた私は工具メーカーでの営業・マーケティングの経験を活かし、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」を2020年から運営しています。
本記事では国勢調査と生産動態統計を用いて、NC工作機械で金属を切削加工している人数を推定しています。
この記事を読むことで、日本の切削加工業界における市場規模の一部を把握することができます。


NC工作機械で金属を切削加工している人数を推定
NC工作機械で金属を切削加工しているオペレーターの人数を公開されているデータを組み合わせ推定してみました。
推定にあたり下記のデータを利用しました。
- 国勢調査
- 経済産業省 生産動態統計
推定の前提
工作機械にはNC工作機械と汎用工作機械がありますが、今回はNC工作機械に限定しています。
また、工作機械の中でも金属工作機械に限定しています。
金属工作機械には研削盤や専用機が含まれていますが、切削加工している人数を推定するために、マシニングセンタおよびNC旋盤に限定しています。
切削工具を使う専用機もありますが、定義があいまいであるため、今回は除外しました。
国勢調査を用いて人数を推定

NC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターを推定するために、国勢調査のデータを利用しました。
国勢調査とは
国勢調査とは、日本に住んでいるすべての人および世帯を対象とする国の最も重要な統計調査で、国内の人口や世帯の実態を明らかにするため、5年ごとに行われています。
国勢調査から得られる様々な統計は、国や地方公共団体の政治・行政で広く利用されるだけでなく、民間企業や研究機関などでも経営や研究などの基礎データとして幅広い用途に利用されています。(総務省統計局より)
皆さんも5年に1度回答されている国勢調査に、実はNC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターに関する情報がありました。
国勢調査の中で対象となる統計データ
記事作成にあたり、国勢調査の中から「平成27年国勢調査(2015年)」を利用しました。
記事作成時点では、令和2年(2020年)の結果がまだ公表されていなかったため、平成27年(2015年)のデータを使っています。
国勢調査の中から、NC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターを推定するにあたり、下記のデータを利用しました。
抽出詳細集計
└ 抽出詳細集計結果
└抽出詳細集計(就業者の産業(小分類)・職業(小分類)など)
└ 10 就業上の地位(8区分), 職業(小分類), 男女別15歳以上就業者数 – 全国
「10 就業上の地位(8区分), 職業(小分類), 男女別15歳以上就業者数 – 全国」の中に、「49d 金属工作機械作業従事者」という選択肢があり、こちらが生産工程で金属工作機械を使用する人です。
平成27年(2015年)の人数が下記となります。
国税調査 分類 | 人数 |
総数(職業小分類) | 58,890,810人 |
└ H 生産工程従事者 | 7,679,870人 |
└ 49 製品製造・加工処理従事者(金属製品) | 1,149,350人 |
└ 49d 金属工作機械作業従事者 | 161,930人 |
生産工程で金属工作機械を使用するオペレーターが約16万人いることがわかりました。
前述した通り、金属工作機械の定義には研削盤や専用機が含まれているため、「49d 金属工作機械作業従事者」から、マシニングセンタもしくはNC旋盤を使用するオペレーター数を推定する必要があります。
経済産業省 生産動態統計を用いて推定
「49d 金属工作機械作業従事者」約16万人から、マシニングセンタもしくはNC旋盤を使用するオペレーター数を推定するために、経済産業省 生産動態統計を利用しました。
「経済産業省 生産動態統計年報 機械統計編」で、マシニングセンタとNC旋盤の年間の生産台数を確認することができます。
金属工作機械の生産台数全体の中でマシニングセンタとNC旋盤が占める割合を使うことで、目的の数値を算出してみたいと思います。
2016~2020年 5年間の生産台数の平均から、金属工作機械全体でマシニングセンタとNC旋盤が占める割合が下記の数値です。
生産動態統計 分類 | 年間生産台数(5年平均) | 割合 |
金属工作機械 | 69,849台 | |
└ マシニングセンタ | 31,229台 | 45% |
└ NC旋盤 | 15,529台 | 22% |
マシニングセンタとNC旋盤の生産台数を合算すると、金属工作機械の生産数量全体の67%を占めていることがわかりました。
「49d 金属工作機械作業従事者」約16万人のうち、67%がマシニングセンタもしくはNC旋盤を使用していると仮定して推定すると108,493人でした。
つまり、NC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターは約10万人いると推定できます。
ちなみに同じ計算方法で、マシニングセンタを使用するオペレーターが72,869人、NC旋盤を使用するオペレーターが35,624人と推定できます。
工作機械 種類 | 想定オペレーター数 |
マシニングセンタ | 72,869人 |
NC旋盤 | 35,624人 |
合計 | 108,493人 |
「機械加工技能士」データを確認

NC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターの10万人という推定結果について、この数値に違和感がないか「機械加工技能士」のデータを確認してみました。
機械加工技能士とは国家検定である技能検定制度の一種です。
工作物の切削加工、研削加工などの技術を対象としており、学科試験と実技試験に合格した人に与えられる称号です。
「機械加工技能士の数」との比較
機械加工技能士の1級の合格者は年間約2,000人います。(厚生労働省が委託する中央職業能力開発協会が発行する資料に記載されている2009~2013年のデータより)
20歳に1級機械加工技能士になり40年勤務すると仮定すると、2,000人×40年で現役の合格者数は8万人程度いると考えられます。
年代によって合格者数は異なりますし、合格者の中には学生や合格したけどNC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターになっていない人も含まれているため、あくまでこちらは仮定の数字です。
推定した10万人に対して8万人という数値だったため、10万人の推定に違和感はないと考えました。
「労働力人口」データを確認

NC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターの10万人という推定結果について、この数値に違和感がないか「労働者人口」のデータを確認してみました。
労働者人口とは、15歳以上の人口のうち「就業者」と「完全失業者」を合わせたものです(総務省統計局)
「労働力人口」との比較
2020年の労働力人口のうち15~64歳は5,946万人でした。(労働力調査(基本集計)2020年)
2020年の日本の総人口が1億2,622万7,000人であるため、労働力人口(15~64歳)は全体の約50%です。
労働力人口(15~64歳)が5,946万人で、NC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターが10万人いると推定しているため、働いている600人に1人が該当する計算です。
私の感覚値として600人に1人は現実的な数値であるなと思いました。
「JIMTOF参加者」データを確認
NC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターの10万人という推定結果について、この数値に違和感がないか「JIMTOF来場者」のデータを確認してみました。
使用したのはJIMTOF2018の来場者データです。
JIMTOFは2年に1回開催される、世界四大工作機械見本市で、国内の切削加工業界の方が最も参加する展示会です。

JIMTOF2018は2018年11月1日(木)~11月6日(火)の6日間開催され、国内・海外合算の来場者数は188,955人と公表されています。
「JIMTOF参加者」との比較
部品加工業に所属する人数は、業種別カテゴリーから確認できます。

JIMTOF2018に参加した部品加工業に所属する人数(国内)は、上記グラフより105,030人であることがわかりました。
ただ、この中には生産工程に携わっていない職種の方(例えば営業や事務など)も含まれています。
生産工程に携わっている人を推定するために、来場者の職種を利用します。
(こちらは単一回答です)

NC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターは、上記グラフの生産・製造に属していると考えられます。
生産・製造を職種とする人(国内)は、上記グラフより全体の22.9%であることがわかりました。
製造業の部品加工業に所属する人数(国内)105,030人に、生産・製造を職種とする人(国内)の割合22.9%をかけると、24,052人という数字が出ました。
NC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターが10万人いるという推定結果が出ています。
そのため、JIMTOF2018にNC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターの約4人に1人が来場していることになります。(24,052人/108,493人)
この結果に関して、バリ取り工具メーカーの営業としてJIMTOFに参加された切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)の方と会話した感覚から、そこまで違和感のない数値だなと思いました。
会社の立地や規模、部署の役割によって異なりますが、会社から5~10人に1人くらいがJIMTOFに参加している感覚があったため、4人に1人という結果に違和感はありません。
まとめ
- 平成27年国勢調査(2015年)のデータから、生産工程で金属工作機械を使用するオペレーターが約16万人いることがわかった
- 経済産業省 生産動態統計年報 機械統計編のマシニングセンタとNC旋盤の年間の生産台数から、NC工作機械(マシニングセンタもしくはNC旋盤)で金属を切削加工しているオペレーターの数が約10万人いると推定した
編集長コメント
「NC工作機械で金属を切削加工している人数を推定」いかがでしたか。
推定した10万人に対して、「機械加工技能士の数」「労働力人口」「JIMTOF参加者」のデータも確認してみましたが、かなり近い数字になっているのではないかと考えています。
市場規模の把握の役に立ち情報になっていれば嬉しいです。
執筆者情報

本記事はタクミセンパイの服部が執筆・編集しました。
私は工具メーカーでの営業とマーケティングの経験を活かし、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」を2020年から運営しています。
私(服部)の実績や経歴については「運営について」に記載しています。
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