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【インタビュー】しぶちょーさんに聞く工作機械の今

ブログをご覧いただきましてありがとうございます。
「切削工具の情報サイト タクミセンパイ」を運営する、編集長の服部です。

今回、ブログ「しぶちょー技術研究所」を運営する「しぶちょーさん」に工作機械のトレンド・切削工具のIoT化・工作機械とAIなどをインタビューさせていただきました。

1. しぶちょーさんについて

タクミセンパイ服部(以下、服部):「しぶちょーさん」およびに「しぶちょー技術研究所」ついて教えてください。


しぶちょーさん:どーも、しぶちょーと申します。

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私は工作機械メーカーにて、工作機械の開発設計に従事している技術者です。
その傍らで「しぶちょー技術研究所」という技術ブログを運営しております。

本ブログでは機械設計、最新・トレンド技術、加工技術、業界研究、DIYなどなど・・・ものづくりの“技術“に関わるトピックを幅広く取り扱っております

ブログのコンセプトは「納得、発見、ものづくり」です。

この技術ってこういうことだったんだ、という“納得”
こんな技術があるのかー、知らなかったな、という“発見”

この2つを通して、“ものづくり”をもっと好きになってもらいたい。
多くの人に色々な技術を知ってもらいたい。
そんな気持ちで記事を執筆させていただいております。

専門でない人にも技術の面白さを伝えたいので、誰が読んでもわかるような記事の執筆を心がけています。

2. しぶちょー技術研究所の情報発信について

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服部:「しぶちょー技術研究所」のターゲット、情報発信のこだわりについて教えてください。



しぶちょーさん:扱うトピックも幅広いため、ターゲット層も広めです。

まずは、ものづくり産業に興味がある学生です。
特に機械設計職、また工作機械業界などに興味のある熱意ある学生諸君にこの業界のことを知ってもらいたいですね。

次は、現役の技術者です。
私自身、ここまでに培ってきた知識・技術がどのくらい他の設計者の役に立つのかを試してみたいという気持ちもあり、現役技術者向けの記事も書いています。
また、情報発信が他業種の技術者との交流する機会になれば良いと思って活動しております。

最後は、ものづくりやDIYに興味がある人です。
ものづくりは製造業に勤める人の特権ではなく、誰でも何かを作ることはできます。
近年は3Dプリンタの普及により、誰でも形を作り出せる時代になりました。
アイディアがあって、何か作りたい!という人の手助けになるような記事を書いて、ものづくりの面白さをもっと広めていきたいと思っています。

情報発信のこだわりとしては、“わかりやすい“発信を心掛けています
技術の話って小難しいことが多いんですけど、その中でも分かりやすくて面白い部分にフォーカスして発信するようにしています。
分かりやすさのために厳密性を捨てているので、他の技術者の方からご指摘を受けることもありますが(笑)

そう言った部分は反省しつつ、今後もわかりやすく面白い技術情報の発信を続けていきたいです。



服部:私も工作機械と製造業における情報発信を学ぶために、「しぶちょー技術研究所」を活用させてもらっていますが、面白くてわかりやすいです!

ブログは専門的な内容を「いらすとや」で図解されており、ビジュアルで理解が進むので、オススメです

3. 工作機械のトレンド

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服部:工作機械の技術トレンドについて教えてください。



しぶちょーさん:工作機械の技術トレンドは「工作機械のIoT化・デジタル化」「自動化」「省エネ」の3つがあります。

それぞれ業界の具体的な動きも交えて解説します。

工作機械のIoT化・デジタル化

しぶちょーさん:まず、一つ目は”工作機械のIoT化”と“デジタル化“です。

これは工作機械業界に限らず、ものづくり業界全体に言えることですが、デジタル化やIoT化の流れは大きいです。
各社、手探りの状態ですが新たな価値を生み出そうと力を入れています。

その中でも注目度が高いのが“デジタルツイン“ですね。
デジタルツイン は、バーチャル空間上に現実空間を再現して、その中でシミュレーションや事前検証を行うという技術です。
検証したデータは、現実空間にフィードバックされます。

加工分野で特に注目されているのは、DMG森精機が取り組んでいる「デジタルツインを用いた加工シミュレーション」でしょう。
バーチャル空間上に機械一台まるまる再現して、そこでバーチャル加工を行うという技術であり、実際にモノを削らなくてもどのような加工結果になるか、事前検証することができます。

また、ヤマザキマザックなどは加工現場の工作機械の仮想モデルをデジタル空間上に再現して、オフィスPC上で段取りを行える“デジタル段取り“を提唱しています。

とはいえ、デジタルツインもまだまだ発展途上の技術です。
機械単体のデジタル化は比較的進んでいますが、製造工程全体のデジタル化、あるいは工場全体化のデジタル化など、規模が広くなれば当然再現も難しくなります

デジタルツインの適用範囲の拡大、およびデジタル化の分解能の向上が今後の課題でしょう。
また、無駄にデジタル化をしてもコストがかさむだけなので、効果的なデジタル化をするための取捨選択も必要ですね。

機械から情報を取得するデジタイゼーション、取得した情報を価値にするデジタライゼーション、さらにはデジタルを駆使して新しい製造業のあり方を提案するデジタルトランスフォーメーション。
デジタル分野に関しては、業界全体として発展途上ではありますが、それゆえに各社の競争が激しく、昨今のトレンドの中でも最も熱い分野ですね。

自動化

しぶちょーさん:二つ目のトレンドは”自動化”です。

人件費の高騰に伴い、少ない人手で多くの機械を動かしたいというニーズが高まってきています

これまでは、複数の工作機械を繋げた大規模なFMS(Flexible Manufacturing System)が主な自動化の形でした。
しかし昨今は“多品種・少量生産“の時代ですので、あらゆる変更に柔軟に対応できる小規模な自動化システムが求められます

特に最近では、多軸ロボットアームを利用した自動化提案が流行りで、各社がこぞって開発を進めていますね

省エネ

しぶちょーさん:三つ目のトレンドは”省エネ”です。

持続可能な開発目標SDGs が提唱され、今後は工作機械にも省エネの考え方が求められるようになります

日本全体の電力消費の内、約4割が製造業が消費する電力だというデータがあります。
更にその内の約7割が工場内で消費する電力です。
そのうち、工作機械が何割の消費を占めるのかはわかりませんが、少なくないのは間違い無いでしょう。

省エネは、直接生産性に関わらないため、今まで蔑ろにされてきた分野でしたが、無視できなくなってきました。

工作機械の環境評価に関するJISの整備も進められており、今後もますます省エネ要求は厳しくなっていくでしょう

4. 切削工具のIoT化

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服部:切削工具のIoT化は切削加工業界の1つのトレンドだと思いますが、今後工作機械メーカーはどのように対応されていくと考えますか。



しぶちょーさん:ツールのIoT化に対する工作機械メーカーの対応は2パターンあると考えています。

まず一つ目は、「工作機械メーカーが独自でIoT工具を開発する」というものです。

IoTの話とは少しずれますが、ご存知の通り工作機械メーカーの牧野フライス製作所がSmart Toolという製品を展開しました。
工作機械メーカーが独自ツールを開発するのは非常に珍しいのですが、独自開発を行うことで自社で培った制御技術や加工ノウハウを存分に活かした競争力のある工具を展開できるというメリットがあります。

ただし、ほとんどの工作機械メーカーは工具に関するノウハウを持っていないので、基本的には工具メーカーとの協業が必須となるでしょう。

これが二つ目のパターンの「工具メーカーと工作機械メーカーが提携して開発を行う」というものです。
工具のIoT化に関しては、工具メーカーが独自で研究・開発を行ってるものが多くありますが、実際にお客様に提供しようと思ったら工作機械メーカーの協力は必須です。

いくつかの会社では既に「工具にIoTセンサを取り付けて、加工の見れる化・最適化を行う」というシステム単位で行われています。
しかし、製造現場には既に様々なIoTシステムが導入されており、それぞれが“独立したシステム“になってしまっているという問題もあります。

システム同士がシームレスに繋がらなければ、製造現場のDXにはつながりません
そう言った意味でも、工作機械をハブとしたシステムの統合・オープン化が必要であり、工作機械メーカーと工具メーカーの垣根を超えた協業が必須になると思います。

技術的な話をすると、IoT工具はセンサを埋め込めるスペースは限られていますし、センサに対し給電をどう行うのか、という問題もあります。
回転しない旋削系の工具なら問題なくても、ミル系の工具ではまた別の問題が発生したり・・・と、まだまだ課題が盛り沢山の発展途上の技術です。

個人的には、無理して工具にセンサを埋め込まなくても、機械側で振動を検知した方が合理的だとは思っています。
例えば、突き出しの長い特殊工具などだけ工具側のセンサを用いて、振動を取得する等の棲み分けは必要だと思います。

そう言った意味で、サンドビックさんが出しているサイレントツールプラスなどは合理的だと思いますね。



服部:切削工具のIoT化については、「イスカルのインタビュー」でも切削工具メーカーと工作機械メーカーが水面下で既に取り組みを始めているとお聞きしています。

新規技術の発表のタイミングとしては、2022年はJIMTOF2022がありますので、IoT化された切削工具が展示されることを期待しています。

5. 日本と海外の工作機械の開発方針

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服部:日本と海外の工作機械の開発方針の違いについて教えてください。



しぶちょーさん:一括りに海外といっても多岐にわたりますので、海外=欧州として話を進めます。

日本と海外の開発方針の大きな違いは、“NC補正“をどう捉えるかの違いです。

補正とは、工作機械のNC装置が機械の状態を考慮して、正確な動作ができるように指令を補う機能です。
簡単な例で言えば、バックラッシが1mmある機械に対して「10mm動け」と指令を出した場合、実際に機械が動くのはバックラッシ分を除いた「9mm」です。

補正機能が働いた場合、「10mm動け」の指令に対して、バックラッシ分の1mmを考慮して11mm動かす動作を行います。
結果的に指令通り「10mm」動くことができるわけです。

上記の例えでいうなら、日本では、バックラッシが0になるように機械側を作り込みます。
機械の精度をとことん高めて、補正はあくまでも補正。
どうしても機械で精度が出せなかった場合の最終手段という考え方です。

一方、海外では「どんな方法でも正確に動けば問題ないよね」という思想で、機械側の作り込みに拘りません
最終的に狙った動作ができるなら、それが機械の性能なのかNCの補正なのかはあまり気にしません

補正技術が未熟であった時代には、機械の作り込みができている日本の工作機械が優位でした。
しかしNCの補正技術が発達してきた昨今では、補正技術を使いノウハウを蓄積してきた海外の方に優位性があります

機械の作り込みをしなくて良い分、コスト的にも安く出来ますし、複雑な動作をする“同時5軸加工“などは絶対的に補正を使用しますからね。

6. 日本と海外の工作機械ユーザーの違い

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服部:日本と海外の工作機械のユーザーの違いについて教えてください。



しぶちょーさん:これも国ぞれぞれ大きく異なるので、日本と海外という大きな括りではあまりハッキリとしたことは言えないです。

傾向で語るなら、最も大きく異なるのはマシンオペレーターのレベルや意識でしょう。

求める機械はユーザーごとに大きく異なるので、あくまでざっくりした傾向として説明します。

アジア圏の途上国

中国をはじめとするアジア圏の途上国では、マシンオペレーターのレベルは低く、極端に言えば“オペレーター=ワークを段取りしてサイクルスタートを押す人“という感じです。
プログラムを作る人と機械を触る人は完全に棲み分けされています。
よって、簡単に段取りができて誰が使っても間違えない機械や機能が求められます

ヨーロッパ・アメリカ

ヨーロッパやアメリカのユーザーは逆にマシンオペレーターの立場が強いです。

ヨーロッパのとある工場長などは、工場の稼働率を上げる一番の方法は「従業員をなるべく休ませないことだ」と言っていました。
これは決して、従業員に激務をさせるという意味ではありません。

ヨーロッパの従業員は「ちょっと腰が痛い」とか「手首に違和感がある」といった理由ですぐに仕事を休んでしまうらしいのです。
使いずらい機械を導入すると皆が難癖つけて休んでしまい、仕事がなかなか進まないと工場長が嘆いていました。
故に人間工学を用いた、人に負担を掛けない機械が強く求められます。
人間工学の発祥は欧米ですからね。

日本

では、我が国日本はどうかと言えば、両者の間の子です。
マシンオペレーターの立場は高くないですが、技術レベルは高いという感じです。(一昔前は、機械をぶつけたら即日解雇、なんてことも普通にあったとか。)

機械に求められるのは、とにかく省スペースと自動化の両立です。
日本は土地が狭く人件費は高いのでので、狭い中にいかにに生産性の高い設備を導入できるかがポイントとなっています。



服部:日本のマシンオペレーターは技術レベルが高いのに、立場が低いというのは残念だなと感じます。

切削工具の日」では、切削工具の改善に取り組むユーザーを表彰したいと考えていますので、マシンオペレーターがもっと評価されるように取り組んでいきたいと思います。

7. 工作機械とAI

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服部:工作機械にAIが搭載されるなど、自動化される領域は拡大していますが、今後も自動化されずに人が価値を発揮する領域は何だとお考えですか。



しぶちょーさん:自動化で人が必要なくなる、AIが人の仕事を奪う・・・など、ネガティブなことも囁かれる昨今ではありますが、私は決してそうは思いません。
自動化は人から仕事を奪うためのものではなく、“人にしかできない付加価値の高い仕事“をしてもらうための手段だと思っています。

工具を例に挙げれば、昔は職人が自らが工具作りを行っていました。
職人の腕=工具作りの腕と言って良いほど重要で、“渡り“と呼ばれる職人は自分専用の工具を常に持ち歩いていたほどです。
俗にいう、火造り工具という奴です。

逆に言えば、全ての職人がそれだけ工具作りに時間をかけていました。
それが、工具技術の発展により、誰もが質の高い工具を手に入れられる時代になり、職人は本来の仕事である“加工“に集中できるようになったわけです。

AIや自動化、デジタル化の潮流も本質的にはこの構図と変わりません。
人が価値ある仕事をするために、技術が手助けするだけの話です。

そう言うと、「人がやるべき価値ある仕事とは何か」といった話になります。
人それぞれ意見はあると思いますが、私は人の仕事とは課題や問題に“気づく“ことだと思います。
端的に言えば、考えることですね。
現場を改善する、便利なものを作る、世の中を豊かにする・・・そのような技術開発の発端になる気づきはいつまで経っても人の仕事です。

ものづくり関連のニュースを見るとAIやデジタル化、自動化が日々取り上げられています。
しかし実際の現場で、上手く活用できているのはごく一部であり、まだまだ発展途上なのが現実です。

ゆえにアイディアや気づき次第では、大きな価値を生み出すことができるチャンスとも言えます。
技術的に優れているわけでなくても、ちょっとした気づきが価値になる可能性が十分にあります
(中小企業白書などにはそういった事例がたくさん載っているので、是非目を通してみると良いと思います。オススメです。)

ものづくりにおける価値は確実に変化しており、これからますます単一の“モノ“売りから、サービス全体を含めて提供する“コト“売りにシフトしていくでしょう。
まさにその“コト“を考えることこそ、人にしかできない価値ある仕事だと思います。

8. さいごに一言!

しぶちょーさん:かなり長くなっていましました・・。
コンパクトにまとめれずに申し訳ありません(汗)

今後も変わらず、発信を続けていきますのでよろしくお願いいたします!

また、今後は“技術者同士が交流する機会“を作っていければと思っています。
ものづくり産業を横軸に繋げるような活動を積極的に行なっていく予定です。

Twitterでのちょっとした企画もいろいろと計画していますので、私が何か変なことを始めたら温かい目で見守っていただければ幸いです。
気が向いたら、乗っかってきてくださね!!

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