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当サイトを運営する編集長の服部です。
今回、2020年11月24日にARMCODE1を発表した、アルム株式会社 代表の平山京幸様にインタビューさせていただきました。
はじめに
アルム・ARMCODE1紹介
アルム株式会社、ARMCODE1について簡単に紹介させていただきます。
アルム株式会社について
アルム株式会社は、石川県に本社をおくエンジニアリング企業です。
2006年に超精密部品加工事業で創業し、現在はFA事業、制御システム事業も展開しています。
ARMCODE1について
ARMCODE1は、加工プログラムをAIによって完全自動化ができるシステムです。
2020年12月16日に事前予約を開始し、2021年8月に提供を予定しています。
1. アルム社の戦略について
タクミセンパイ服部(以下、服部):私は、バリ取り自動化ツールの技術営業として、500社以上の切削加工ユーザーに訪問し、技術支援をしてきました。
その経験から考えても、部品加工事業をしながら、FA事業と制御システム事業をされているアルム社は珍しいと思います。
平山様は自社をどのような会社と位置づけ、戦略を立てられているのでしょうか。
アルム株式会社 平山様(以下、平山様):FA事業、制御システム事業をやると、必ず部品加工が必要になります。
わたしたちの意識として、自動化設備を一貫生産することで、全ての工程で製造責任を持つことができ、お客様にご安心いただけます。
ただし、わたしたちは単なる「装置製造メーカー」ではなく、「自動化メーカー」であると考えています。
装置製造メーカーは、お客様から提示された仕様通りに装置をつくることが使命となりますが、わたしたちは自動化メーカーである以上、自動化の装置またはソフトウェアを使ったお客様が、それを使って利益が上がった、生産性が上がったとならなければ、役目を果たしたことになりません。
服部:自動化を目的にしてしまうと、お客様の利益を上げる、生産性を上げることを忘れがちです。
お客様の自動化を実現する仕事に携わる上で、大切な視点だと改めて感じました。
2. ARMCODE1の開発経緯について
服部:ARMCODE1開発の経緯、キッカケを教えてください。
平山様:リーマンショック以降、わたしの知り合い、外注先などの部品加工会社が、倒産・廃業していきました。
一方で、中国現地で、日本企業から依頼された大量の部品を目の当たりにしました。
中国に加工を依頼する理由は、やはりコストであることを聞かされ、「このまま日本の部品加工会社はジリ貧になっていくのか。日本の製造業は終わっていくのか」と悩みました。
約7年前(2014年頃)に部品加工会社の完全自動化を構想・企画し、見積から加工、納品までの工程を細分化し、それぞれ分析を実施しました。
6年前(2015年)に秋田県の超精密部品加工会社を買い取り、その会社を「完全自動化」することで、日本の加工会社でも中国と競争できるコストを実現することに貢献しようと決意しました。
服部:ARMCODE1の開発経緯は、まずは市場において自社が生き残るための自動化であり、その後システムを外販することで新規ビジネスモデルを創出するという流れを取られています。
これは、AIシステム開発の理想的な進め方だと思います。
3. 開発を支えるアルム社の技術について
服部:ARMCODE1開発を支えるアルム社の技術を教えてください。
平山様:ARMCODE1は、自動化技術、加工技術、解析技術の3つの技術を組み合わせた新しいAIソフトウェアです。
1つでも欠けると完成しません。自社を振り返ると、3つの技術を持っていることに気づき、どのように組み合わせてAIを完成させるかを考えました。
技術的に足りない部分は国立大学にも協力いただき、ようやく事前予約開始まで辿り着きました。
服部:部品加工事業、FA事業、制御システム事業で培われた技術からARMCODE1が誕生しており、実用的なAIシステムであると期待しています。
AIの技術支援を国立大学に依頼されたというのは参考になります。
4. 開発に携わったメンバーについて
服部:社員の平均年齢が若いとのことですが、ARMCODE1開発に関わったのは若手と熟練工と考えて良いでしょうか。
平山様:製造業では若手だと思います。プロジェクトリーダーのわたしは41歳、その他の技術者は全員わたしより年下です。しかし、この道20年戦士ばかりです。
5. 学習データについて
服部:AIシステム開発における課題の1つである学習データの収集について、どのように取り組まれたのか教えてください。
平山様:熟練加工者の知見を徹底して数値化しました。
そして、それが正しいかのテスト加工も社内で実施しております。
ですから、他社のソフトウェアでは精度が出なくても、ARMCODE1では精度が出るのです。
精度やタップ、リーマ穴など常用の加工は独自のアルゴリズムを使用しており、特許出願しております。
服部:熟練加工者の知見を数値化することは難しく、数値化のためにAIシステムが利用されることさえあります。
そして、数値化するだけでなく、自社で加工して確認までされており、精度に対するこだわりを知ることができました。
6. 開発で苦労したことについて
服部:ARMCODE1開発で苦労したことを教えてください。
平山様:終わりが見えなかった時期が続いたことだと思います。
加工条件のデータベースは100万通りを超えており、都度テスト加工をする毎日でした。
開発スタッフ皆が「吐きそう」「明日が見えない」と弱音を吐くこともあり、わたしも皆を励ますのが大変だった時期もあります。
7. 開発方法について
服部:ARMCODE1開発の進め方は、アジャイル開発に近いと思いました。
製造業において、ベータ版を提供し、ユーザーを巻き込んで開発を進めるケースはほとんどないと思います。
開発の進め方で意識されていることがあれば教えてください。
平山様:今の進め方がアジャイル開発だとは知りませんでした。
ただ、子会社の部品加工は、自動車関連、半導体の金型、治具、機械部品が中心で、医療、宇宙・航空などの知見は少ないです。
500ユーザーを集めたのは、彼らの加工知見を吸収したいと考えているからです。
また、ARMCODEと連動するロボットシステムも設計しており、完全自動のモデルケースを全国に作りたいと考えています。
モデルケースになって頂いた部品加工会社には、さらなる展開を用意しており、それも着々と準備中です。きっと皆さん驚きますよ。
服部:ロボットシステムとの連動は、メカトロ事業、制御システム事業をされているから成せることです。今後の展開が楽しみです。
8. 現場の属人的な課題について
服部:NCプログラムの作成、見積もりの作成、いずれも製造業の人に依存した工程だと思います。
それぞれの工程を自動化することの難しさと、通常これらを一人前にできるように新人を教育するとなると、どれくらいの期間がかかるか教えてください。
平山様:部品加工1人前になるには、10年はかかると言われています。
見積までできるのは15〜20年はかかります。
ARMCODE1の開発に携わった技術者は皆、15〜20年戦士です。
わたし自身はマシンチャージ、マンチャージなどの財務分析もかなり勉強し、ARMCODE1の自動見積機能のアルゴリズムに落とし込みをしています。
2021年の8月のベータ版発売時には、図面1枚につき数秒の速さで見積できるようになります。
服部:見積もりの自動作成機能は、平山様の財務分析のノウハウが活かされており、改めて会社一丸となって誕生したシステムであることを知り、驚きました。
9. AIができない人の価値ある仕事とは
服部:AIは人の仕事を奪うのではなく、人だからできる価値ある仕事に集中させてくれるものだと考えています。
ARMCODE1導入後に人が価値を出せるのは、どのようなことだと考えられていますか。
平山様:わたしは子会社の社長でもあるのですが、わたしたちの技術開発方針は「ローテクとハイテク技術を磨く」です。
ハイテクはARMCODE1のようなシステム、マシンの新技術を使いこなすことです。
ローテクは子会社独自のバフ、ロウ付け、すり合わせ技術などのハンドメイク品を指します。
わたしは製造AIが普及しても、加工品の90%までしか網羅できないと考えています。
あとの10%はどうしても手作業でやらなければなりません。
経営者が10%の手作業に経営資源を集中できるように、サポートしてくれるのがAIだと考えています。
今は、人がやらなくてもいいことを人がやっていて、生産性が下がっています。人がやらなくていいことはAIやロボットにさせればいい、人は人がやるべきことに集中すべき。これがわたしの思いです。
ただ、わたしはPCに繋がった仕事は皆、AI化出来ると考えており、ARMCODEシリーズでそれを証明します。すでに手掛けているARMCODE5は驚くと思いますよ。
服部:平山様の考え方は、AI活用のお手本だとおもいます。ARMCODEシリーズのAI活用から目が離せません。
10. AIを検討する中小企業へメッセージ
服部:CODE1は、アルム社においてAIによる工程の自動化だけでなく、新規ビジネスモデルの創出を実現しようとされています。
国内で中小企業がAIシステムによって新規ビジネスモデルの創出まで達成している話は、ゑびや大食堂の店舗分析AIソリューションしか知りません。
中小企業のAIシステム開発を検討・進められている方に、メッセージをお願いします。
平山様:AIシステム開発に限らず、中小企業が下請け仕事から脱するには、複数の技術を結びつけ、今ある問題を解決するシステムを考え出すことだと思います。
社員に「考えろ」ではなく、社長自ら動き、考え出す努力をしなければならないと思います。
服部:インタビューを通じて、平山様自身も考え、そしてノウハウをシステムに落とし込んでいることが分かりました。
AIシステムによる新規ビジネスモデルの創出は、全社一丸となって取り組むべきプロジェクトであると考えます。
編集長コメント
オリジナルのAIシステムを開発し、新規ビジネスモデルの創出まで達成しているのは、大企業やAIスタートアップばかりです。
アルム社のように、製造業の中小企業がオリジナルのAIシステムで新規ビジネスモデルの創出を実現する事例は少なく、今後の展開を期待しています。
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