切削工具と切削加工業界の情報を発信するポータルサイト「タクミセンパイ」をご覧いただきありがとうございます。
当サイトを運営する編集長の服部です。
本記事では「機械工具販売店(機械工具商社)の未来と生き残り戦略」について解説しています。
「EV化がもたらす影響で変化が必要な機械工具販売店について、課題と今後どうすべきか」について理解が深まる記事を目指して執筆しました。
【記事の信頼性】
本記事を書いた私(服部)は2014年から切削加工業界に携わり、2020年から「タクミセンパイ」を運営しています。
工具メーカーで営業として500社以上の切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)に訪問し、技術支援をさせていただきました。
また、マーケティングとして展示会とイベントの企画・運営、カタログとWEBサイトの大型リニューアルプロジェクト、ブランディングプロジェクトを経験しました。
営業とマーケティングの経験をもとに、切削加工業界で働く皆さまに向けて本記事を執筆しています。
機械工具販売店の未来と生き残り戦略
エンジン車からEVへ移行することにより加工部品の変化・減少、切削工具などの生産財を扱うECサイトの成長、加工工場の海外移管、業界全体の人手不足等で、機械工具販売店が今のまま仕事を続けていると生き残るのが難しいと考えます。
特に、エンジン車からのEV移行は切削加工業界に与える影響が大きいと考えられます。
それは、工作機械・切削工具の多くがエンジン車の内燃機関で多く利用されており、エンジンがモーターに置き換わるからです。
機械工具販売店が生き残るにはどのような戦略を取るべきか「イスカルに聞く日本と海外の切削工具市場」などの過去のインタビューや日本産機新聞の「【特集】ユーザーに聞く、機械工具商へのメッセージ」、私自身のバリ取り工具メーカーでの営業経験などからまとめました。
EV化の影響を予測したデータを紹介し、機械工具販売店が生き残るための戦略として下記3つのポイントを解説します。
- 御用聞きから脱却し、提案型営業へ
- 注文受付・納品業務の改善
- 加工拠点の設置・再研磨サービスの提供
EV化の影響を予測したデータ
下のグラフは工作機械の国内向け出荷(内需)について、どのような用途で購入されているかのデータ(2016~2020年)になります。
自動車が約3割、自動車部品が約2割を占めており、工作機械の用途の約5割は自動車関係となっています。
つまり、自動車向けの工作機械の需要が減れば、切削工具の需要も減るといえます。
また、日本政策投資銀行が2018年に公表した「EV化の進展と工作機械業界への影響」において、内燃機関を持つ自動車とEVの1台あたりに使用される工作機械の金額を比較したデータが下図です。
自動車1台当たりの工作機械使用額試算が、ガソリン車の約15,000円/台に対して、EVは約8,000円/台に減少すると予測されています。
つまり、工作機械使用額が47%減少すれば、切削工具の使用も減るといえます。
2つデータから工作機械・切削工具の需要と使用が減ることが確認でき、取り扱い商品の中心が切削工具の機械工具販売店は、現状維持では未来が危ういといえます。
1. 御用聞きから脱却し、提案型営業へ
御用聞きからの脱却
多くの機械工具販売店は、ルート訪問による営業を実施しています。
そして、多くの営業はユーザーから言われたものを納品する、いわゆる御用聞きスタイルの営業を実施しています。
昔は御用聞きスタイルで機械工具商のビジネスは成立していました。
しかし、ECサイトが成長し、切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)が自分で工具を探して発注できるようになり、注文を受けるだけの営業は不要になってきました。
そして、ECサイトは在庫を持つことで即納を実現しており、販売店が頻繁に納品できないようなエリアではECサイトの利用が進んでいます。
これらの問題から、機械工具販売店は御用聞きスタイルのままでは生き残ることが難しく、提案型営業へ変わる必要があります。
提案型営業への成長
提案型営業として切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)が求めていることは何でしょうか。
切削工具の最新情報提供
機械工具販売店の提案型営業に求めることの1つが、切削工具の最新情報の提供です。
切削工具メーカーは複数存在するので、切削工具ユーザーが定期的に各社のWEBサイトや配信されたメールを確認し、最新情報を入手するのは困難です。
そのため、販売店が切削工具ユーザーにとって必要な工具の最新情報やキャンペーンを伝える必要があります。
メーカーとしても、切削工具の新製品はプロモーションをしないと売れないため、販売店から切削工具ユーザーへの紹介を期待しています。
ECサイトに切削工具の新製品が登録されるまでにはタイムラグがあるため、新製品こそ販売店が差別化できるポイントです。
販売店は大手切削工具メーカーについて、1社につき専門の担当営業を配置するのが良いと考えます。
担当営業がメーカーと同レベルの知識を持つことができれば、社内連携することで圧倒的に早く切削工具ユーザーに対応することができます。
ユーザーの事業内容の理解
提案型営業に求めることの2つ目が、切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)の事業内容を理解し、最適な提案することです。
特に今はエンジン自動車がEVなどに移行していくタイミングで、切削工具ユーザーは新たな事業の立ち上げや実績のない加工に取り組んでいます。
切削工具ユーザーの業務を把握しておけば、過去実績のない加工に対して最適な工具を提案し、受注できるチャンスがあります。
テストのサポート
提案型営業に求めることの3つ目が、新製品を切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)に正しく使って効果を実感してもらうために、メーカーと連携したテストのサポートです。
切削工具をユーザーに提案して終わるのではなく、テストにもできる限り立ち合いすべきだと思います。
メーカーが立ち会う場合は自身の勉強として、メーカー不在の場合はうまくいかない時にメーカーとのつなぎを販売店がすると、切削工具ユーザーはテストに集中することができます。
また、事前に切削工具ユーザーが保有する工作機械の種類やスペックなどを詳細に把握しておくと、工具の選定やテストの際にスピーディに対応できます。
提案型営業に変わるために
機械工具販売店の営業が今の業務を続けながら提案型営業に変わるのは無理です。
提案営業に変わるためには、注文受付・納品業務を改善し(後述)、展示会や勉強会などに積極的に参加できる組織に変わる必要があります。
そして、提案型営業に成長させるためには、トップの強力な推進力と長期的なお金と時間の投資、場合によっては一時的な売り上げの低下を受け入れる覚悟が必要です。
販売店の営業は、JIMTOFやMECTなどの大きな展示会の際に、切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)と一緒に会場を視察することが多いと思います。
お金と時間の投資は必要ですが、展示会1日目は営業が1人で会場を回って展示内容の情報収集と勉強をして、2日目に切削工具ユーザーに最適な会社を紹介するのが理想です。
2. 注文受付・納品業務の改善
機械工具販売店が提案型営業としてレベルを上げ、切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)のために時間をより使えるようにするために、日々の注文受付と納品業務を改善する必要があります。
注文受付業務の改善
注文受付業務を軽減させるためには、切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)の発注から手配までを自動化・簡略化させるためのシステム開発が不可欠です。
理想は自社専用の注文システムを構築し、そのシステムを切削工具ユーザーに利用してもらうことです。
PCが現場にない・現場だと使いにくいなどの課題が場合は、販売店が負担してPCやタブレットを設置し、そこから注文してもらる方法もあります。
注文受付業務の改善は、システム開発だけが解決策ではありません。
例えばコールセンター部門を設置して、顧客からの注文を営業ではなく、専門部門が受けることです。
現場ではPCやタブレットの操作が面倒で、電話の方が楽という場合も多いと思いますので、コールセンターは効果的だと思います。
納品業務の改善
次は日々の納品業務についてです。
営業にとって納品が切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)との貴重な接点ではあるので、ゼロにする必要はありませんが、改善する必要があります。
改善する方法の1つとして、納品部隊を専門で用意し、複数の切削工具ユーザーへ効率的に納品することです。
最適な配達ルートをAIが決めるようなサービスも増えていますし、それらのサービスを活用すれば初期投資低く導入することが可能です。
株式会社トラスコは、「置き薬」ならぬ「置き工具」のサービス「MROストッカー」を始めています。
こちらのサービスは発注受付業務と納品業務を改善しつつ、さらに切削工具ユーザーにとってもメリットの多い素晴らしいアイデアです。
3. 加工拠点の設置・再研磨サービスの提供
加工拠点の設置
機械工具販売店がユーザーとの関係性を強化し、さらに提案型営業を育てるために、工作機械を自社で保有するなどの設備投資も重要です。
工作機械を導入し、オペレーターを配置することで、忙しい切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)に代わって加工テストを受け付けて提案につなげることも可能です。
また、プライベートショーでの実演加工は、集客として効果的です。
株式会社Cominixは2016年に「Cominixテクニカルセンター」を開設しています。
縦型マシニングセンタ、複合旋盤、NC旋盤などを保有し、自社で販売する工具や機器のテストを実施し、テクニカルデータを動画と一緒に公開し、提案につなげています。
テクニカルセンターの開設により、提案の説得力を向上させ、営業の教育にも活かしています。
再研磨サービスの提供
また、新品の切削工具を販売するだけが機械工具販売店の仕事ではありません。
再研磨が可能な切削工具についてのサポートもビジネスチャンスです。
販売店が再研磨サービスを提供できれば、切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)が利用している他社商流の切削工具を把握することができ、自社の商流に切り替えるチャンスをつかむことも可能です。
また、再研磨含めた工具販売の提案で独自性を持たせることもできます。
編集長コメント
「機械工具販売店の未来と生き残り戦略」いかがでしたか。
投資が必要な内容もありますが、御用聞きから脱却して提案型営業へ成長するための要素は、組織変更や部署の機能を変えることからスタートできます。
この記事を読んで行動に移し、生き残る販売店に変わる会社が増えると嬉しいです。
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