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【インタビュー】JFE精密に聞いた切削工具のコーティング技術

切削工具と切削加工業界の情報を発信するポータルサイト「タクミセンパイ」をご覧いただきありがとうございます。
当サイトを運営する編集長の服部です。

今回、JFE精密株式会社のコーティング事業部 事業部長の今藤様とコーティング営業部の坂木様、古島様にインタビューさせていただきました。

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JFE精密株式会社について

JFE精密株式会社は、表面処理(PVDコーティング)の受託加工ならびに冷間鍛造材の製造・販売を行っている会社で、JFEスチール100%出資のグループ会社です。

コーティングの受託加工は1987年より開始し、今年で35年目を迎え、PVDコーティングとしては老舗企業の一つとなります。

2015年に「ココロをこめたコーティングを、一人ひとりのお客さまに向けて」のメッセージとともに、「ココロコーティング」のブランドを掲げました。

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ロゴマークはコーティング事業部の全社員が誇りを胸にお客さまと向き合い、一つひとつの製品を、心をこめてコーティングをするという考えをかたちにしています。

また、「ココロコーティング」の左にあるハートは、私たちの情熱を表す心でもあり、また、お客さまと握手をする手でもあります。

1. コーティングについて

タクミセンパイ服部(以下、服部):コーティングについて教えてください。



JFE精密株式会社様(以下、JFE精密様):コーティングは表面処理技術の1つで、表面被覆型と表面硬化型に分類できます。

表面被覆型は、さらにPVD(物理蒸着)、CVD(化学蒸着)、めっき、溶射などに分類できます。
PVD(物理蒸着)には、イオンプレーティング、スパッタリング、真空蒸着の3つの手法があります。

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JFE精密では、イオン化した金属を被加工物に成膜させる表面処理のイオンプレーティングと、スパッタリングを提供しています。

PVDコーティングは、2~3μmの薄膜を表面に蒸着させており、高い処理寸法精度を得ることができます。
非常に硬くて熱に強く、錆びないなどの特徴があり、硬度は金属の数倍~数十倍、最高温度1300度に耐えることが可能です。

切削工具にPVDコーティングを施すことで、耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性、滑り性を向上させることができます。

PVDコーティングの切削工具以外の適応領域としては、プレス加工用の金型(パンチ・ダイ等)、樹脂成形金型や射出成形部品などがあります。

2. 切削工具におけるコーティングの重要性

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服部:切削工具において、コーティングがなぜ重要であるか教えてください。



JFE精密切削工具が使用される環境は過酷になってきています。

高速加工・高能率が求められ、難削材・新素材などの被削材が増加しています
そのため、切削工具の刃先への負荷は上がり、刃先温度は上昇しており、コーティングの重要性が増しています

切削工具にコーティングを施すことで、強度と靭性をより高いレベルでバランスさせることができます。

これにより
・工具の長寿命化
・加工速度のアップ
・コストの削減
など生産性の向上
に役立ちます。

3. コーティングの歴史

服部:コーティングの歴史について教えてください。



JFE精密日本国内のコーティング技術は、1985年頃から普及が始まり、単層膜から多層膜、積層膜へと進化してきました。

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JFE精密は1980年頃を第1世代(単層膜)、1990年頃を第2世代(多合金膜)、2000年頃を第3世代(多層膜)、2010年以降を第4世代(積層膜)として自社開発を行ってきました。

現在は第4世代で、特定の対象に対してコーティングの層を重ねて強度だけでなく靭性も持たせ、耐久性を向上させるなどの研究・開発を行っています。

世界的にみると、ヨーロッパメーカーのコーティング技術のシェアが高いと認識しています。

4. コーティング事業を始めたキッカケ

服部:JFE精密様がコーティング事業を始められたキッカケを教えてください。



JFE精密:1935年に日本鋼管新潟電気製鉄所として、マンガン系のフェロアロイ製造事業を開始しました。

マンガン系のフェロアロイは製鉄所で利用される副材料で、電気炉で大量の電気を使用して生産するため、オイルショックを契機に国内での製造が難しくなりました。
そこで新たな事業を模索する中で現在の事業であるコーティング受託処理事業と冷間鍛造品製造事業を1987年より開始しました。

2003年にJFE精密へ社名変更しました。
2020年には従来のコーティング工場が手狭になってきたため、今後の発展性を考慮した新工場を建設しました。

5. コーティングにおける強み

服部:JFE精密様のコーティングにおける強みを教えてください。



JFE精密:JFE精密では、工具1本からコーティングを受けております。

お客様の課題をお伺いし、切削工具の材種、被削材の種類などから最適なコーティングを提案しています。

コーティングは新潟工場1箇所で全て実施しており、3方式合計11台のコーティング炉を保有しています。

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コーティングは19種類を標準で取り揃えており、TiN、TiAIN、CrN、SX-Wなどの主要な被膜は炉毎に専用炉化されており、毎日処理を行い短納期対応しております。

また、再研磨+再コーティングの一括受託サービスも行っております。
特に最近ではSDGsの観点からこのサービスが見直されてきており、たくさんの再研磨製品の受託を頂いております。

コーティングは多品種小ロットのビジネスであるため、対応するスタッフは100名を超えています。

お客様にお届けしたら終わりではなく、調査・解析部隊を保有し、使用されたあとの損傷具合の確認など、アフターサービスにも力を入れています
コーティング被膜や基材摩耗状況の観察、詳細な元素分析などの幅広い対応が可能です。

そして、全国を網羅する営業体制で、きめ細かなサポート・納期対応を提供しています。

6. 切削工具におけるコーティング事例について

服部:JFE精密様における切削工具のコーティング事例について教えてください。



JFE精密:JFE精密では独自開発のコーティングとしてSX-W(超硬工具向け)、SX-H(ハイス工具、ロウ付け工具向け)、VSX®-MJをラインナップしています。

超硬工具向け中~高硬度材加工用被膜のSX-W

超硬ボールエンドミルを使ったSKD11(HRC59)の加工で高硬度、高耐熱被膜のSX-Wに変更し、TiAlN比較で寿命が3.5倍以上になった事例があります。

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高硬度材加工用被膜のVSX®-MJ

微細組織を持つ多層構造により、高温雰囲気における耐酸化性と耐摩耗性、優れた耐クラック性を併せ持ちます。
これにより、高送り加工、ドライ加工に最高のパフォーマンスを発揮します。

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VSX®-MJについて、超硬ボールエンドミルを使ったSKD11(HRC59)の加工で、AlCrN系比較で寿命が約2.5倍以上になった事例があります。

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汎用的なTiN、TiAlNから、HRC20~60の広範囲の被削材に使用可能なSX-W、高硬度材の加工でより高い性能を発揮するVSX®-MJなど、お客様に最適な被膜をご提案いたします。

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7. コーティングのニーズや市場の変化について

服部:コーティングのニーズや市場の変化について教えてください。



JFE精密:自動車産業の動向(EV化や軽量化)、航空機産業の動向に大きく影響を受けます。

切削加工においては、被削材が多様化・高強度化・高硬度化し、難加工材や新素材が増えて加工は難しくなってきています。
また、加工形状の微細化など高精度化が進み、加工の高能率化に対する要求も高まっています

それらの課題・ニーズに対して、コーティングによって提供できる耐摩耗性、耐凝着性、耐熱性、切粉排出性は重要であると考えます。

JFE精密では、被削材の難加工化、使用環境の複雑化に対応するべく、ナノレベルの多層化、成分の多元化、他の表面処理との複合化等の手法を駆使した独自の被膜であるSX/VSX®シリーズの開発を続けています。

編集長コメント

切削工具においてコーティングが重要であることは知っていましたが、機能と効果を知ることができ、非常に勉強になりました。

切削工具の選定、使用後の再研磨およびコーティングを依頼する上で、コーティングの機能と効果を知っておくことは、重要であると考えます。

JFE精密様は長い歴史で培ったコーティングの開発力・技術力を、高い品質とサービス力で提供されていると感じました。

また、「ココロコーティング」というブランドを掲げており、コーティング企業のリーダーとして今後の展開が楽しみです。

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