超硬工具の材料であるタングステンの課題を知りたいですか。
本記事ではレアメタルであるタングステンの現状、タングステンと超硬工具の関係性についてまとめています。
この記事を書いた私は工具メーカーでの営業・マーケティングの経験を活かし、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」を2020年から運営しています。
この記事を読むことで、切削工具の1つ超硬工具の材料であるタングステンの有効活用がいかに重要であるかを知ることができます。
タングステンは代替可能性が低く、埋蔵国が偏っているという2つの課題があります。
超硬工具の材料であるタングステンの課題

タングステンは熱に強く、他の金属と混ぜる(合金化する)ことで硬度が高くなるなどの特徴から、世界の主要国で超硬工具の製造用途に利用されています。
タングステンの用途のうち超硬合金が世界平均で約61%、日本では約76%と高く、超硬工具と非常に関連性の高い材質です。
タングステンと超硬工具

まずはタングステンが使用される超硬工具について解説していきます。
下図は切削工具の材料別生産高(2025年)をまとめたものです。

超硬工具の生産高は切削工具全体の72.3%を占めており、切削工具の主流です。
切削工具には他にも特殊鋼工具(高速度工具鋼(ハイス)など)やダイヤモンド工具などがありますが、超硬工具は硬度・耐熱性・耐摩耗性・靭性・汎用性のバランスが圧倒的に優れています。
そして、超硬工具の約90%はレアメタルであるタングステン(W)で構成されています。
残りの構成物質は8%がコバルト(Co)、2%がタンタル(Ta)とバナジウム(V)などです。
つまり、切削工具の70%以上で利用されている超硬工具は、材質の約90%がタングステンによって構成されています。
切削工具以外にもEV部品、半導体製造装置、再エネ設備、航空宇宙産業、防衛(砲弾等)などでタングステンの需要が増え、タングステンの価格を高騰させる原因となります。
ここで問題となるのが、超硬工具の主原料であるタングステンが、他の材料に置き換えられない(代替可能性が低い)ことです。
超硬工具を製造するには、現時点でタングステンが不可欠です。
超硬工具に利用されるタングステンの埋蔵国と生産国

資源としてのタングステンについて、埋蔵・鉱石生産(採掘)・精鉱・製錬品が特定国に偏在し、日本は全量を輸入に依存していることから、供給リスクが高いという課題があります。
下図はタングステン鉱石の国別埋蔵寡占度(2018年)をまとめたものです。

タングステン鉱石の国別埋蔵寡占度の58%が中国であり、中国に依存していることがわかります。
中国では主にタングステン鉱石として黒重石(鉄マンガン重石/ウォルフラマイト)が採掘され、灰重石(シェーライト)も産出しています。
下図はタングステン鉱石(黒重石・灰重石)から中間原料のAPT(パラタングステン酸アンモニウム)を精錬し、超硬工具を製造するまでの流れです。

埋蔵地だけでなく、タングステンのサプライチェーンにおける、生産(採掘)・精鉱・製錬品(APT・三酸化タングステン)までの上流〜中間工程も強く中国に依存しています。
2018年のデータですが、タングステンの鉱石生産(採掘)の79%、製錬品の75%が中国で、いずれも高い水準です。
タングステン価格と超硬工具価格の上昇(2026年)
2026年4月時点で起きている、タングステン価格の上昇、そして超硬工具の価格上昇についてまとめました。
タングステン価格の指標となるAPT
タングステン価格の指標となるタングステン中間原料APT(パラタングステン酸アンモニウム)の原料価格を用いて、価格上昇を説明します。

APTはタングステン鉱石から高純度精製された白色の結晶性粉末のことで、これを最終的に炭化タングステン(WC)粉末に加工し、超硬工具を製造します。
APT価格には種類があり、今回「APT EU price (US$/mtu):欧州市場での取引価格」を利用し、LowとHighから平均値を出しました。
2025年1月以降のAPT価格の推移を表した図が下記です。

APTの価格は、2026年3月末時点で、2025年1月との比較で約9倍上昇しています。
タングステンおよびAPTが2026年に上昇した4つの理由
中国は2025年2月4日よりタングステン関連25品目の輸出規制を開始し、同年4月に規制対象を拡大しました。
2026年に入り、4つの理由でAPTの価格が急上昇しました。
1つ目の理由が中国で環境規制の強化によりタングステン鉱石の採掘枠の削減、生産能力の制約が発生していることです。
供給量が継続的に減少しており、材料価格が急騰しています。
2つ目の理由が中国がさらにAPTの輸出規制を強めたことです。
輸出資格を有する企業も約15社に限定され、国内外の流通量は大幅に減少しています。
3つ目の理由が軍需用途、太陽光発電向けタングステンワイヤー、高付加価値製造業(航空宇宙や半導体)などにおけるタングステンの新規需要が急増していることです。
これらの新規需要により、タングステンの資源不足が一層深刻化しています。
4つ目の理由が、1~3の理由を背景に、戦略金属としてのタングステンを備蓄拡大するために市場における買いだめ行為が発生し、価格高騰に拍車をかけています。
APT価格が急上昇したことで、約90%がタングステンで構成された超硬工具の価格が高騰しました。
また、タングステン原料に限らず、超硬工具を製造する際に必要な溶剤や、製造機械の油も不足して価格が上昇しており、製品価格へ転嫁されています。
超硬工具に使用されるタングステンを有効活用するためには
タングステンは代替可能性が低く、埋蔵国が偏っているという2つの課題があります。
そして、切削工具の主流は超硬工具であり(全体の約70%)、その超硬工具の約90%にタングステンが使われています。
そのため、超硬工具を有効活用することがタングステン問題に対する1つの答えとなっています。
タングステンを有効活用するために、直近のアクションとしては切削工具の再研磨による有効活用と国内リサイクル率の向上が必要です。
タングステン鉱石(黒重石・灰重石)に含まれるタングステンの割合は1%以下です。
そのため、製錬作業の効率を考えると、タングステンが約90%含まれる超硬工具から抽出するリサイクルが効率的であると考えられます。
切削工具の再研磨・リサイクルに関しては「切削工具の再研磨・リサイクルとSDGs」の記事で紹介しています。
タングステンに関する国の取り組み
経済産業省 資源エネルギー庁のタングステンに対する取り組みとして、下記が実施されています。
- オセアニアでの埋蔵探査
- 備蓄対象鉱種への指定
- 省資源化の技術開発支援
- 廃棄される超硬工具のリサイクルコストを低減する技術開発
上記の中で、備蓄対象鉱種への指定、省資源化の技術開発支援が一定の効果を出したと報告されています。
今後は新たな埋蔵地の探査、リサイクルを促進・円滑化するための政策支援が検討されています。
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執筆者情報

本記事はタクミセンパイの服部が執筆・編集しました。
私は工具メーカーでの営業とマーケティングの経験を活かし、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」を2020年から運営しています。
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