自社の製品・サービスを長く愛用してもらう方法はないかと困っていませんか。
この記事を書いた私は工具メーカーでの営業・マーケティングの経験を活かし、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」を2020年から運営しています。
タクミセンパイというブランドを磨き、ファンを獲得して推してもらった経験からこの記事を執筆しました。
本記事では「推し」「ファン」「ブランド」の解説、「推し」をビジネスで活用する方法、推したくなる企業の特徴を紹介しています。
この記事を読むことで、「推し」がいかに重要であるか理解することができ、実践につなげるヒントを得ることができます。
ブランドを磨いてファンを増やし、企業と製品を推してもらうことは重要であり、特に男性30代向けのマーケティングとして可能性があることがわかりました。
ブランドを磨いてファンに推してもらうことの重要性
「推し」とは「他の人にすすめること。また俗に、人にすすめたいほど気に入っている人や物(デジタル大辞泉より)」と定義されています。
toC向けの製品・サービスだけでなく、toB向け領域においてもこの「推し」の考え方が重要になってきています。
切削工具であれば、他の切削工具ユーザーにオススメしたくなるほど気に入っている切削工具メーカーや製品となります。
本記事では企業がブランドを磨いてファンを増やし、企業と製品を推してもらうことの重要性について紹介していきます。
ビジネスで「推し」を活用する
推し(オススメ)というポジションを獲得する取り組みが、企業において重要になると考えています。その背景を説明します。
株式会社ネオマーケティングが全国の13~49歳の男女900名を対象として、「推し活」をテーマにしたインターネットリサーチを2021年に実施しています。
下のグラフは「推し活の対象」について、男性の結果を集計したものです。
年代問わず1位は「実在の人物」ですが、2位以降は推し活の対象が異なっています。
特に注目したいのが、男性30代が全年代で最も「人物以外のモノ(刀剣、施設、高層ビル、鉄道、食べ物、お店、ブランド、服飾など)」を推し活の対象にしていることです。
株式会社ネオマーケティングの同インターネットリサーチで「自分の推しをほかの人にも勧めたいか」についても調査されており、男性の結果を集計したものが下記グラフです。
男性は年代が上がるほど勧めたいと思う傾向にあり、男性30代も10代・20代と比較して高いことがわかります。
筆者(30代)がXで交流している男性30代の特徴として、オススメのガジェットなどモノの発信をよく見かけます。
私自身も同じように何か気に入ったモノを発信してオススメすることがあり、男性30代の特徴の1つなのかもしれません。
例えばモノの1つである「切削工具」において、男性30代向けのマーケティングとして「推し」の考え方が特に活用できるのではないかと考えました。
本記事では触れませんが、男性20代は「キャラクター」の割合が高く、企業オリジナルキャラクターを通じたコミュニケーションや、Vtuberなどインフルエンサーとのコラボレーションが有効的かもしれません。
「推し」と「ファン」と「ブランド」
「推し」をマーケティングとして活用するためには、「ファン」を増やす必要があります。
そして、「ファン」を増やすためには企業や製品の「ブランド」が重要になります。
ブランドについて
まずは企業におけるブランドの重要性について、切削工具を例に紹介していきます。
切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)に対して、切削工具メーカーに求める要素として重視している項目として、下記3つの選択肢に順位をつけてもらいました。
- 製品力
- サービス力
- ブランド力
51人が回答したアンケート結果が下記となります。
さらに1位を3点、2位を2点、3位を1点として合算したグラフが下記です。
アンケート結果としては製品力>サービス力>ブランド力となっています。
この結果だけ見ると、ブランドに力を入れる必要がないと考えられるかもしれません。
タクミセンパイでは、製品力・サービス力・ブランド力を下記と定義しています。
- 製品力:性能・品質・コストパフォーマンス・ラインナップ
- サービス力:納期・相談対応レベル・相談対応スピード・提供コンテンツ
- ブランド力:ネーミング・メッセージ・デザイン・シンボル・イメージ・サウンド
製品力について、日本の切削工具メーカーは優れた開発技術・製造技術を持っており、世界で戦える性能と品質の切削工具を提供している企業が多いと考えます。
また、コストパフォーマンスに優れた製品を提供している企業、製品ラインナップが豊富な企業も存在します。
サービス力について、製品力と比較すると相談対応レベル・相談対応スピード・提供コンテンツはまだまだ改善の余地がある企業も多いと考えます。
ただし、これらの課題は比較的改善しやすいです。
切削工具ユーザーは特に切削工具メーカーのブランドを意識せず、製品を選んでいるかもしれません。
しかし、切削工具ユーザーに最有力候補として最初に選んでもらう、製品力とサービス力が各社並んだ時に選んでもらうためにブランド力が重要であると考えます。
特に切削工具は切削加工における生産財の中でも少ない投資で大きな改善ができ、かつ提供する企業数が多いため、選んでもらうためのブランド力が重要です。
国内の切削工具メーカーについて、ブランドに対する取り組みがほとんどできていない、もしくは取り組んでいない・取り組めていない企業が多いと感じます。
ブランドは企業に長期的な利益を生み出す「無形資産」といえます。
ブランド力をつけることで競合との価格競争がなくなり、利益を確保しやすくなります。
ファンについて
ブランドを磨くことで、企業と製品のファンを増やすことができます。
ファンになってもらうと推してくれる(オススメしてくれる)ため、利用ユーザーの拡大に期待できます。
また、指名買い・リピート購入してもらいやすくなり、長期的な利益の確保が期待できます。
ファンになってもらうと、たとえ新製品の発表がなかったとしても、展示会でブースに寄ってくれるようになります。
最近は切削加工業界でもコミュニティを運営する企業が増えてきています。
コミュニティ内でファン同士に交流してもらい、さらに企業と製品を好きになってもらうための仕組みの1つです。
ファンになって推したくなる企業とは
ユーザーにとって推したくなる企業とはどのような企業でしょうか。
企業の理念や信念、価値観に共感してもらい、信頼されることでファンが増えていきます。
つまり企業が存在する意味や掲げるビジョン・ミッションが重要です。
企業としてファンを獲得する上で、「共感」「愛着」「信頼」の感情を高めることが重要とされています*。
*ファンベースなひとたち( 著:佐藤尚之・津田匡保)より引用
共感 | ・ファンの言葉を傾聴し、フォーカスする ・ファンであることに自信をもってもらう ・ファンを喜ばせる。新規顧客より優先する |
愛着 | ・商品にストーリーやドラマをまとわせる ・ファンとの接点を大切にし、改善する ・ファンが参加できる場を増やし、活気づける |
信頼 | ・それは誠実なやり方か、自分に問いかける ・本業を細部まで見せ、丁寧に説明する ・社員の信頼を大切にし「最強のファン」にする |
「共感」「愛着」「信頼」の感情を高めるために、ブランドを使って表現・発信する必要があります。
ブランドにはネーミング、メッセージ、デザイン、シンボル、イメージ、サウンドなどの要素があります。
企業としてこれらの要素がユーザーにとって「共感」「愛着」「信頼」につながるものである必要があります。
さらにこれらの要素は、展示会(ブースデザイン・演出・オペレーション)、WEBサイト、カタログやチラシ、広告、メールマガジンやSNS、そして直接顧客と接するスタッフの対応において、言い方・伝え方などの言語表現と、見え方などのビジュアル的表現の統一が重要となってきます。
ノベルティ
企業がユーザーに提供する「ノベルティ」について、年々こだわりのアイテムが増えていると感じます。
製品だけでなく、ノベルティもファンが推したくなるための重要なアイテムです。
展示会場で顧客情報を獲得するためにばら撒くノベルティや、既製品にただロゴを印字しただけのノベルティではなく、ファンが欲しくなるこだわりのノベルティが増えています。
ファンはこだわりのノベルティを求めて展示会・イベントに参加し、ブースに訪問してくれます。
また、ノベルティは製品以上に気軽に発信しやすく、こだわりのアイテムであればSNSで自慢したくなります。
SNS
切削加工業界は同業者と交流できる機会がほとんどありません。
その理由は自社の技術を守るという背景もあると思いますが、そもそも切削加工業界全体をカバーした団体が存在しないからではないか考えています。
切削加工業界全体での交流の場を求め、Xを利用して交流する企業・個人が増えており、現在盛り上がりをみせています。
ファンを増やし、推してもらうためにはXという接点を活用することが必須であると考えます。
Xでアカウントが存在していないと、そのプラットフォーム上では「存在していない」と認識されてしまうリスクがあるとも考えられます。
SNSのメリットは、距離や時間を超越してファンやフォロワーと交流できることです。
例えばフォローが1000人いたとして、1000人に対して同時に挨拶できるのは展示会であっても難しいです。
SNSではファンやフォロワーと交流することで、「共感」「愛着」の感情を高めることができます。
「中の人」がファンやフォロワーとコミュニケーションを取ることで企業や製品に「愛着」をもってもらえます。
さらに継続的なアカウントの運用によってファンやフォロワーに対する理解度を高め、反響を期待できる発信の繰り返しにより「共感」を得ることができます。
一方的な告知やPRをしているだけでは「共感」と「愛着」を得ることは難しいです。
企業や製品のファンになってもらうには、定期的(理想は毎日)な発信だけでなく、告知やPRなどの投稿を控えてコミュニケーションを増やすことが重要です。
Xにおける定期的な発信とコミュニケーションにおいて、「中の人」の個性も重要です。
企業名でフォローする人もいますが、「中の人」の個性が活かされた発信やコミュニケーションを見てフォローする人も多いです。
そして重要なのが「中の人」が会社や製品を愛していなければ、ファンに向けた発信をすることは難しいです。
結論、SNSを通じてファンを増やすためは、従業員満足度が高い企業であることが前提なのではと考えます。
SNSを通じてファンを増やしている会社は、フォロワー数というオープンで定量的な影響力を示すだけでなく、働きたいと思えるような企業としての発信ができると考えます。
企業アカウントとして「中の人」を育てることは、一長一短でできることではありません。
日々の投稿で感覚を磨き、ファンやフォロワーとの関係を構築する「中の人」はプロフェショナル中のプロフェショナルであり、社内で待遇面含めてもっと評価されてほしいと思っています。
切削加工業界におけるX(旧Twitter)の活用について「切削加工業界でSNS「X」を活用する3つの方法」を公開しています。
タクミセンパイもX(旧Twitter)アカウントを持っており、Twitter時代にフォロワー数を増やすために取り組んだ内容から得たノウハウを「バズりに頼らずX(旧Twitter)フォロワー1000人を達成する7つのポイント」と「X(旧Twitter)で毎日投稿を続けるためのコツとネタ8選」で公開しております。
推しの工具
ファンに企業を推してもらうだけでなく、特定の製品を推してもらうための取り組みも重要です。
製品においては、キャッチーで覚えやすいネーミング、メッセージ(コンセプト)やそのブランドを表現するデザイン・シンボル・イメージが推してもらうために重要です。
特徴的で差別化された性能を持っていたり、発信したくなるようなユニークな名前をもつ製品など、推される製品を目指すことも重要であると考えます。
製品も企業ブランドの1つとして、ネーミング、メッセージ、デザイン、シンボル、イメージ、サウンドなどの要素を統一する必要があります。
(あえて低価格帯シリーズとしてブランド方針を変える選択肢もありますが)
切削工具ユーザー(工作機械で切削加工されている方)に回答してもらったアンケートを確認すると、大手であることや有名であることは候補を絞る1つの条件ではあるものの、知る人ぞ知る製品を求め、ニッチな製品をオススメする人が一定数いることを確認しています。
まだ誰も知らないような製品を自分がいち早く認めて推し、有名にさせたいと思うのが「推し」の特徴の1つです。
つまり切削工具メーカーとしては、前例がない製品であっても、推してくれるファンであれば最初に検討・採用してくれる可能性が高い顧客といえます。
推しの工具(オススメの切削工具)があったとしても、これまでは切削工具ユーザーが情報を発信する場がありませんでした。
現在は切削工具ユーザーが自分の推しの工具を発信できる場としてXがあります。
しかも発信しやすい雰囲気が高まっており、切削関連のアカウントが「いいね!」や「リポスト」などの反応をしてくれます。
推しの切削工具の情報は、同業者にとって有益な情報であり、同じ切削工具が好きな同業者同士がつながることも可能になってきています。
編集長コメント
「ブランドを磨いてファンを増やし推してもらうことの重要性」いかがでしたか。
切削工具メーカーがブランドを磨いてファンを増やし、企業と製品を推してもらうことの重要性、そして男性30代向けのマーケティングとしての可能性が伝われば嬉しいです。
ファンを活かした戦略を詳しく知りたい方は「ファンベースなひとたち( 著:佐藤尚之・津田匡保)」、経済学とビジネスの側面で推しを理解したい方は「推しエコノミー(著:中山淳雄)」が書籍としてオススメです。
世代によって取るべき戦略、マーケティングは変わってきます。
切削加工業界の若い世代(Z世代)をターゲットとした戦略としては「Z世代に対して切削加工業界が取るべき5つの戦略」を公開していますのであわせてご活用ください。
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執筆者情報
本記事はタクミセンパイの服部が執筆・編集しました。
私は工具メーカーでの営業とマーケティングの経験を活かし、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」を2020年から運営しています。
私(服部)の実績や経歴については「運営について」に記載しています。
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